止まらない胸を焦がす想い、大人になれない恋心は今日も体を火照らせた。もし明日世界が終わるなら、その冷たい腕に抱かれて眠りたい。目標を失くしうつむく氷刑者の背中、色の消えかかった瞳、それでも彼女が貫く恋。そんな恋乙女エキドナに向けられた氷の刃。命懸けの恋が迎えるのは、終わりか始まりか。
激戦の果ての運命の傷痕でさえ、癒乙女は癒してみせた。それは訪れた常界<テラスティア>での、自らの誓いを貫き通した少年とのひと時、そんなひと夏が、少女を大人にした。背伸びした小さな背中に感じた不吉な未来、だけど未来を信じて進む彼を、例え少年であろうと、マーメイドには止めることは出来なかった。
身に纏いし穏やかな風が、刃となり森乙女の命を狙った。間一髪で危機を退けるも、目の前にはガスマスクをした一人の悪魔が。なぜ、私を。そう、彼女達死刑執行人学園の生徒には、罪人以外に手出しをしてはならない決まりがあった。シュコーシュコー、ガスマスクから僅かに零れた言葉、妖精達は皆、罪人なの、と。
光精王への想いを隠しながらも、使命を全うする戦乙女ワルキューレ。度重なる危険に遭遇しようとも、自らが盾となり命に代えてもお守りする、そう決めていたはずだった。天界<セレスティア>の成り立ちを、歪な平和の片鱗を知ってしまった時、彼女の中で何かが、信じていた大切な何かが崩れ去ろうとしていた。
終わってしまったショータイム、命懸けの戦いは彼女を悪乙女へと。そろそろ、天使のふりは止めちゃおっかな。片目を閉じた無言の合図は多元嬢へと投げられ、そして一人、天界<セレスティア>からの救いの手を振り切り、自らが生まれた魔界<ヘリスティア>へと。サキュバスは歪な平和より、正常な混沌を選んだ。
ふわり、ふわふわり。掛け違えた死装束に気が付くこともなく、霊乙女ゴーストはただ浮かんでいた。透明な空に映し出された未来、あぁ、もう行かなくちゃ。だけど面倒くさいなぁ。あれ、あの人なんで頭に尻尾が生えているんだろ。何にでもなれる無の力は、悪意ある無の力に引き寄せられ、そして京の都を後にした。