極秘裏に開発が進められていた第五世代自律兵器型ドライバ【シラヌイ】は、まるで誰かの戦闘データが蓄積されたAIが搭載されたかのような振る舞いをみせるが、未だ完成には至っていなかった。足りないピース、それは自律の心を動かす力、新たな動力源エレメンツハートの稼働条件。冷たい機械の心に温もりを今。
拳を交える中、機械の心が人間の温かさに触れた時、初めて鼓動を響かせるエレメンツハート。自立を超えた自律、それはまるで人間の様で。燃える魂、狼煙を上げる拳、温もりをくれたあの人の力になりたい。【シラヌイ:ホムラ】はお揃いの赤に袖を通した。全ては父から子へ、厳しさの先の優しさの贈り物だった。
崩れ落ちた聖銃士に手を差し伸べる水を留めた少年。その背後、聞こえた起動音。オリジナルを超えるにはオリジナルを倒すしかない、そこには【サミダレ】を従えた猫背の天才が立っていた。こんな偶然って、あるんだね。血相を変えた聖銃士と天才、水を留めた少年と自らを模した自律兵器の、四人の戦いが始まる。
四つの水の巡り合い、深き想いを込めた銃鎚は天才の初恋を打ち砕き、海神の魂は冷めた心を貫いた。止まるはずの鼓動が、聞こえる。いや、聞こえるはずのない鼓動が、聞こえた。エレメンツハートの稼働条件は満たされ、再起動<リブート>された【サミダレ:マブイ】は初めて言葉を口にした。どうぞ、ご命令を。
風精王へと届けられたのは戦友でもある風の美女が耳にした隠された裏側。直後、巻き起こる竜巻、両目が閉ざされた第五世代自律兵器型ドライバ【マイカゼ】の急襲。彼女が起こした竜巻は、悲しみに満ちていた。その悲しみは、数年前、天界の歪な平和の為に都合の良い犠牲にされた一人の妖精の悲しみにも似ていた。
彼女の破壊は、一人の妖精の存在の否定、風精王は身動きも取れずにいた。だけど、風を纏いし少女はあっさりと言う。友達だったら、間違いを止めなきゃ。風の龍が迷いを、全てを振り払う。再起動<リブート>の果てに目覚めた【マイカゼ:カグラ】を見つめ、少女は諦めたはずの夢を共に夢見た友を思い出していた。
やっぱり息抜きは大切、今日は女子だけでお買いもの。光を宿した少女と、常界の案内をしてもらう光精王、そんな主の身を守る戦乙女と、一途に見つめる太陽に咲く花。午後三時、川沿いのベンチ、並んだ四つのクレープ。せーの、で口にするはずだった甘さは、目にも止まらぬ速さで【ライコウ】の手へとさらわれた。
大切なものを取り返すため、四人の乙女は立ちあがる。優しい種族のはずの妖精達がみせた本気、それは一瞬の出来事だった。先走った三つの光に続き、眉間にしわを寄せた怒りの笑顔のままに振りまわされた光の大剣。再起動<リブート>を終えた【ライコウ:ナユタ】、ベンチにはクレープを持つ手が五つ並んでいた。
やっぱり一人が気楽でいいわ、死神は一人、ラウンジで休憩中。もしも退屈な時間をお過ごしならば、お相手をして差し上げましょう。投げられたサイ、始まったショータイム。示された「4」の枠を求め、名乗りをあげたのは癖の強い髪の悪魔、ハートの尻尾の悪乙女、そして無言で手を上げた【ムラクモ】だった。
オマエは罪な女だな、悪乙女へと鎌を振る闇刑者。あらあら、アタシはもっと罪な女よ。闇刑者へと杵を振る多元嬢。……。無言のまま死神へと襲いかかる自律兵器。私の時間を返してもらえるかしら、悪い夢なら魅せてあげるわ。その全てを薙ぎ払う死神。悪夢の曲芸は過ぎ去り【ムラクモ:オロチ】は目を覚ました。
手段は違えど目的は同じと、皆と同じ道を歩き始めたはずの一人の少年は、自分にしか出来ないことがあると言い残し、一人故郷の極東国<ジャポネシア>へ。枯れることを知らない桜の前で、諸行無常の響きの直後に聞こえてきたのは第五世代自律兵器型ドライバ【アワユキ】の機動音と、鞘から刀を引き抜く音だった。
圧倒的な破壊力を前に、止むを得ず力を共にした無の斧と刀。生憎と罪人以外を斬る趣味はないのでな。最期のひと振りを少年に預け、無刑者は一足先に刀を収めた。綺麗に咲き誇る桜の下、再起動<リブート>を終えた【アワユキ:ミヤビ】が自らの存在理由を口にした頃、無刑者の背中は既に夕日の先へと溶けていた。
【レプリカ】の名が与えられた第五世代自律兵器型ドライバは、光届かない破要塞<カタストロフ>に閉じ込められていた。止まったままのエレメンツハート。あぁ、ボクを呼ぶ声がする。ボクを求める声がする。迎えに来たよ、さぁ、聖なる入口<ディバインゲート>へ向かおうか。悪戯王はリミッターに手をかけた。
発動したバーストモード、終わらない暴走、全て神々のごっこ遊び。天界、常界、魔界、そんな三つの世界が交わり産まれた統合世界。更にその上位なる世界との扉を開く為に【レプリカ:バースト】は聖なる入口<ディバインゲート>へと。黄昏の審判の答え、聖なる扉に隠された真実の前、聖暦の王は引き金を引いた。
計算が正しければ、第三世代自立型ドライバは正当進化を迎えるはずだった。その計算が狂ったのは、約束された未来の存在か、いや、約束された未来には、計算が狂うことすら約束されていたのかもしれない。これからを生きる世代の為に、愛する息子の為に、炎才は全ての【フィアトロン:ドライ】の破壊を始めた。
共通化されていた第三進化の設計、そんな【ウォタトロン:ドライ】の目的に水才は気がついていた。もう既に自分の範疇ではない、だけどそれも好都合。思い通りにならないドライバが思い通りの世界を作ってくれる。だったらいっそ、行く末は誰かに任せようか。ばら撒いたドライバに、水才は多くの初恋を求めた。
優しい顔をした風才は可能性の探求という大義名分の元に動力源の限界を目指し、純度の高い風を集め続けていた。その過程で生まれた【ウィンドロン:ドライ】もまた、天界の風を求め、悲しみに囚われたままの風才の復讐道具へと。君は間違ってないよ、さぁ、もっと風を集めようか。世界評議会の黒い声が聞こえた。
光才が本当に見たかった世界は幸せな世界か、それとも悲しみの世界か。第三世代自立型ドライバ【ライトロン:ドライ】が照らす世界はいつも、悲しみの跡。右目が見つめる幸せとは反対の、ドライバ越しの左目に映した世界は、放たれた自立型ドライバから送られてくる悲しみの果てであり、光才の世界の裏側だった。
繰り返される罪の果てに、意味はあるのだろうか。辿り着いてしまった答えは叶わなかった恋の傷を癒せるわけもなく、闇才を失意の底へと突き落とした。そして産み出された【ダクトロン:ドライ】は誰かに命じられたわけでもなく、ただ淡々と命を刈り続ける。闇才の恋の傷は、いつか癒える日が訪れるのだろうか。
未来の声が聞こえなくなってしまった無才は、それでも開発を続けていた。阻まれた正当進化に気付かないフリをしながら、少しでも世界の情報を集める為に【ノントロン:ドライ】を作り続けた。自分は利用されている、そんなことは百も承知だった。いずれは暴走してしまう自立型ドライバに、僅かな希望を託した。
常界<テラスティア>の外れ、立ち入り禁止区域に指定された場所には六つの研究所が立ち並んでいた。幾重にも配置された鉄壁を越えた先、まず最初に姿を見せたのは火焔研フロギストン。一度は廃棄されたはずの研究所に、悪しき炎は灯っていた。
燃え上がる炎に引き寄せられて、昇格試験のことなど忘れてしまった炎刑者の姿が。悪しき炎や光を求め、悪魔達は幾重の鉄壁を突破していた。止まることのない赤への好奇心。燃え上がる赤こそ至高の色だと、炎刑者は満面の笑みを浮かべていた。
被験体056、左腕に貼られた番号。新たな自立型ドライバ開発の為に、多くの妖精がここへと連れられてきていた。より純度の高い炎は、悪しき炎へと変換される。そして、そんな悪しき炎すらも、自分の目的の為に利用しようとしていた天才がいた。
悪しき炎が囚われた監獄、そこには天才の飽くなき探究心も囚われていた。起動実験レポートに記載されていたのは、新たな炎の力の活路。世界評議会へ提出する直前、天才は最後の1ページを引きちぎり、そして書き足した偽りのレポートを提出した。
研究所の最深部、自らの死を偽った天才は研究を続けていた。そして、偽りのレポートを提出してまで成し遂げたかった目的、開発された第五世代自律兵器型ドライバに込めた願い。炎を灯した少年の元へ急げ、それが未完成品への唯一の命令だった。
氷水研アモルフォス、ここでは悪しき水の研究が行われていた。繰り返される水の力での実験。人々の暮らしを豊かにする為でもなく、開かれた扉へ近づく為でもなく、さらにその先のとある目的の為に、この施設は存在し、そして研究がされていた。
あぁ、また来てしまった。涼しいラウンジを無事に抜け、二等悪魔への昇格を果たした氷刑者は、次に凍える氷水研に迷い込んでいた。溢した白い吐息、かじかむ手で刃を握りしめ、震える唇を噛みしめる。少しにじんだ血に、次こそはと誓うのだった。
被験体105、左腕に貼られた番号。いったいこの施設には、何体の被験体が用意されているのだろうか。力を抜きとられ、そして使い捨てにされる被験体。利用される側と、利用する側、そのどちらかしか、この施設には存在していなかった。
起動実験レポートAに記載されていたのは水の力により活動をする自立型ドライバ達の開発経緯から、経過報告まで、その全てだった。走り書きのそのレポートの最後、それでも僕は初恋を追い求めるよ、そんな一言が添えられていた。
初恋に目覚めた天才は初恋を追い求めた。言葉を越えた交流の先で見つけた初恋。いつか恋は、愛に変わり、そして終わりを迎える。そう、天才の初恋はいつか、純愛へと変わる。終わりを迎えるまでに、あと何人が犠牲となるのだろうか。
極風研コリオリに閉じ込められていたのは無数の風。行き場を無くした風は、ただその場で吹き荒れていた。風を産み出す為だけに囚われたドラゴンは自由を奪われ、ただ風と共に、悲鳴をあげるだけの存在と化していたのだった。
風の力を使用した重罪人がいるという情報を聞きつけ、極風研へと足を踏み入れた風刑者。ただ、この施設は予想以上に風が強く、もしもの時にと頭に乗せたガスマスクが、風に吹き飛ばされてしまわないかということだけを気に病んでいた。
被験体341、左腕に貼られた番号。それは都合の良い犠牲にされた一人の悲しき天才の復讐の数。一体誰が彼女を責められるのだろうか。だけど、そんな彼女を、一人の天才をこのまま放っておくわけにはいかないのだった。
提出を求められた起動実験レポートを丁寧に書きあげた天才は、更なる研究を計画していた。既に、純度の高い風による実験は十分だった。さらにその上位なる風を起こせる存在への道、それこそが、世界評議会に従う彼女の目的だった。
姿を見せたのは、風に魅せられし天才。復讐の過程で気付いてしまった純度の高い風の、その上の上位なる風の存在。彼女にとって、完全なる復讐を遂げる為に必要なことは何なのか、その答えは黄昏の審判のたったひとかけらだった。
眩い光が閉じ込められた研究所、幻光研ホログラフ。この施設は片目を閉ざしたひとりの天才へと、世界評議会が用意したものだった。次から次へと開発される自立型ドライバ達。片目の天才は、左目を閉ざしたまま、この世界の行く末を見つめていた。
予期せぬ恋敵の出現に求愛を阻まれた光刑者は、どうしたら振り向いてくれるのかを考えていた。統合された世界とはいえ、魔界よりも常界の方が科学の進歩が速い。そう、光刑者は科学の力を頼りに、ひとり幻光研へと訪れたのだった。全ては愛の為。
被験体573、左腕に貼られた番号。幻光研に連れられてきた被験体は皆、力を抜きとられているにもかかわらず、とても幸せそうだった。力を抜きとる代わりに与えた幸せ、ただ、その与えた幸せは、天才にとって罰と同意義でもあった。
一体誰がこの落書きを読み、最重要機密レポートだということがわかるだろうか。読み解くこと自体が困難な丸文字に、余白を埋めるかのような落書き。(´・ω`・)と(`・ω´・)で示された実験結果、ただ、楽しさだけは誰にでも伝わっていた。
片目を閉ざした天才は言った。世界の半分は幸せで出来ている。もう半分は悲しみで出来ている。だけど、この世界は三つの交わりにより生まれた世界。彼女にとって、今の世界の隔たりなどは関係なく、ただ皆の幸せを願い、悲しみの裏側を見ていた。
日夜繰り返されていた闇の力の増幅実験。漆黒研クインテセンスを含むこの立ち入り禁止区域の周りには、無数の抜け殻が転がっていた。全ては悪しき闇への探求の為。失意の天才へと与えられたこの施設で、声にならない悲鳴がこだましていた。
常界こそ、悪意の塊ではないだろうか。脳裏から離れることのない常界の罪人への執行風景。闇刑者は一等悪魔への昇格を前に再び常界を訪れていた。多くの抜け殻の噂を頼りに訪れた漆黒研、そこでは彼の想像以上の異常事態が日常と化していた。
被験体411、左腕に貼られた番号。天才にとって、同族であることなど、何の意味もなさなかった。最愛の女性から受けた拒絶が、今も彼の創り物の心を苦しめる。なぜ私じゃダメだったのでしょうか。少し頭の悪い天才は、被験体での実験を続けた。
増幅された闇の力が自立型ドライバの稼働を加速した。もっと、もっと、もっと、止まらない欲求、止まらないペン、あっという間に書きあがる起動実験のレポート。だけど、それほどの天才でも、恋の方程式を紐とく頭脳は持ち合わせていなかった。
恋に敗れた天才にとって、この統合世界に存在理由など求めなかった。手を引いてくれた方へと捧げた創り物の心。全ては上位なる存在の為に。天才へと告げられた新たな研究、それは二文字の合言葉。たった二文字で、彼は全てを理解していた。
その研究施設には、生きていくうえで必要最低限のもの以外、何も用意されていなかった。研究者にとってはこの上のない、研究に没頭出来る施設。だけど、普通の人から見れば、この虚無研カルツァクラインは独房と何ら変わり映えしない施設だった。
常界へと降り立っていた無刑者にも、新たな白の女王の即位の話は届いていた。何故このタイミングで。何が起こるのかはわからない。ただ、何かが起ころうとしていることだけは確実だった。何かを知る為に、未来を知る少女の元へ、無刑者は急いだ。
被験体019、左腕に貼られた番号。ごめんね、これも全部、仕方がないことなの。虚ろな目の天才は、被験体へと謝りの言葉を述べた。抜き取られる無の力、せめてもの償いにと、天才はこの抜き取ったという事実を全て、無に帰した。
何も記載されていない白紙の起動実験レポートを受け取った男は問いかけた。これが君の答えかい。無言で首を縦に振る天才。今更、約束された未来を変えることなど出来やしないよ。無言で首を横に振る天才。虚ろな瞳に、微かな光が宿っていた。
無に魅せられし天才の部屋に配置された無数のモニター。天才は世界の全てを見ていた。そして、世界の監視結果により設計された自立ではない自律の兵器。聞こえなくなった未来への不安を振り払うよう、無心で僅かな希望の開発を進めるのだった。
実用化に成功した第三世代、エレメンツコアにより自立進化を可能にした第四世代、兵器として開発された第五世代、新たな動力源エレメンツハートが搭載されたもう一つの第五世代。では、宝石塔で発見された第零世代は誰が開発したのだろうか。
神の所業、そんな使い古された言葉で片付けられた第零世代。聖暦のスクープだと騒ぎ立てていたメディアは大人しくなり、次第に誰もこの第零世代の話題を口にしなくなっていた。解りやすい程の情報操作、だけど、確実に、開発者は存在していた。
もし、神が創ったのであれば、それは何の為に。そして、神が存在するのであれば、それは何処に。もしかしたらこの世界に、それとも別の世界に。ようやく追いつくことの出来た第零世代が遥か昔から存在していた。それは、紛れもない事実だった。
神は存在する、それはあくまでも仮説に過ぎない。では、神が存在するとしたら、どのような姿をしているのだろうか。人や悪魔、妖精の様な容姿だろうか、それとも、獣の様な容姿だろうか、そもそも、姿形などを持たない存在なのだろうか。
どのような容姿であれ、神が存在したとする。また、神により第零世代が開発されたとする。そして、第零世代の破壊行動、自らが下さんとする審判。聖なる扉、黄昏の審判、約束された未来、その全ての集束。あくまでも、全て仮説でしかなかった。
光届かぬ破要塞<カタストロフ>に閉じ込められていたのは偽物の名前が与えられた第五世代自律兵器型ドライバ。外されたリミッター、発動したバーストモード、加速する暴走、全ては神々のごっこ遊び。全てが停止するまで、破壊活動は終わらない。