全てを魅了するのは、わざと乱した着物からこぼれ出る色香、水も滴るいい女、オノノコマチは自らの麗しさに酔いしれていた。だけど、そんな天界の憧れの的はたった一人の、なびく素振りも見せない男への不満に口を尖らせた。そしていつか、その留めた水に自分を映すことを企て、尖らせた口で笑みを浮かべていた。
幼馴染でもあり、また良きライバルでもある水の大精霊と、一人の水を留めた少年をかけた勝負が始まった。どちらが先に、彼を振り向かせることが出来るのか。幼さの残る笑顔か、それとも大人の色気香る微笑か。当の少年の嫌そうな顔は、水の美女オノノコマチにとって、今となってはご褒美の様に感じるのであった。
宝石塔から発見された巨兵型ドライバ【ゴルドラド】は破壊行為だけをプログラムされたかの様に、瞳に映る者全てを駆逐した。全てを破壊し尽くした時、停止した活動、恐る恐る調べられた機構は第零世代とされた。何世代も前のはずの機体に乗せられた最先端技術、それは聖暦の天才の仕業か、それとも神々の悪戯か。
失われた科学技術を蘇らせようと、その独自の機構が解析される最中、第四世代以降にのみ搭載されていたはずの自立進化が始まった。四世代も前から実現されていたことが発覚した自立進化、それはもはや、神の所業。そして、神の巨兵型ドライバ【ドス:ゴルドラド】は自らが審判を下さんと、破壊行為を再開させた。
滴り落ちる雫を辿り、招かれたのは水の美女の待つ浴室。火照った身体を落ち着かせる冷ややかな水の調べと、水も滴るいい女のおもてなし。だけどそれは、飛沫舞い踊る戦い。冷ややかな浴室が熱を帯びた時、浴室はただの戦場へと変わる。
隊服を脱ぎ捨てたライルは光さえも脱ぎ捨てた。そして一人向かった先。どけよ。殺意を向けられた無通者と無戯獣。おい、立てよ。虚ろな目の聖者に向けられた言葉。俺が殺したいのは、今のアイツじゃないんだ。突きつけたのは聖剣型ドライバ【カリブルヌス】だった。待ってんだよ、アイツは今も、一人で、ずっと。
ったく、おかげで目が覚めたよ。そして聖者は無数のドライバを手に。今年も仕事は休業か、オマエはどうすんだ。問いし相手は隊服を脱ぎ捨てた男。俺は別の道を行く。そっと見つめる聖剣。今宵、サンタクローズは聖叛者へ。例えこの命が尽きても、必ず取り返す。全ては青すぎた春の為、さよならの冬を越えて、今。
隊服を脱ぎ捨てた青年は育ての親から聖剣を託されていた。どんな使い方をしても、良いってことだよな。わざと吐き捨てた言葉。大丈夫だよ、私はあなたを、あなた達のことを、信じているから。湖妖精に見送られ、一人先に湖畔を後にしたのだった。
青年は自分のせいで大切な親友を失った。ずっと一緒にいたのに。誰よりも一緒にいたのに。なぜ、気がつかなかったのか、彼ならきっと、わざと間違った使い方をすると。そんな失意の青年の目を覚めさせたのは封印されし聖剣による鈍い一撃だった。
少女は幼き日々を、どうしても思い出すことが出来なかった。忘れたくても忘れられない思い出。思い出したくても思い出せない思い出。だけど、私は知りたい。知ったうえで、どうするかを決める。それがユカリの想いだった。ねぇ、教えて。私は誰。あなたは誰。それは夜の夢のもう一人の少女への問いかけだった。
これから、いっぱい思い出をつくりましょうね。少女は笑いかける。だから、ほら。少女は少年の銀色の前髪をポケットから取り出したピンで止めた。新しいの、あげるね。それは聖なる夜の贈り物。それじゃあ、こっち向いて。あの日の私、少女エリザベートが覗いたレンズの向こう側、そこにはあの日の二人がいた。
クリスマスイブの夜、それは冷たい雪がくれた暖かな出会い。少年達はいつも一緒だった。沢山遊んで、沢山笑った。沢山喧嘩して、沢山笑った。そして、いつしか少年達は大人になり、別々の道を歩き始める。これは、そんな少年達の永遠の思い出。少年アーサーと少年サンタクローズ、あの日の僕らがそこにはいた。
夜は優しかった。それは一日の終わりだから。それは心落ち着くから。全てが正解であり、不正解だった。なぜ、夜は優しいのか。それは大好きだったあの子と過ごす時間だったから。例え記憶からは忘れ去られても、心からは忘れ去られていなかった。
私はね、きっとあの二人の間には入れないの。それは少女だったから。でもね、こうして眺めているのも好きなんだ。優しい瞳に映る二人。だから、私はこれでいい。あの二人が喜べば、それは私の喜びでもあるから。少女はずっと二人を見守っていた。
美少女ユカリは12位という結果に驚きを隠せずにいた。なぜ、こんなにも。彼女が求めていたのは、たった一人からの、たった一票だけだった。もしかして。そう、集まった票は全部、みんながその一票の代わりにと、思いを込めて投票した票だった。
あんたらじゃ暇さえ潰れないわ。だが、そんなヘグニの尖らせた口から次に出た言葉は違っていた。そうよ、私はあんたみたいな子の相手をしたかったのよ。ヘグニの瞳に映りこんだユカリ。そう、あんたみたいな、復讐心に染まった顔が見たかったの。
振り上げられたのは常闇の死神の大鎌。ねぇ、見えるかしら。ユカリが見上げた闇に染まる空。やっと、この日が来たの。だけど、やっぱり見ないで欲しいかな。そこには女王の責務を忘れ、そして、ただあの日の闇に捕らわれたユカリがいたのだった。
いつの時代も、王様ってのはよくわからない生き物だな。ギルガメッシュでさえ、理解に苦しむアーサーの思考。この常界は、彼が愛していた世界なんじゃないのか。そして振るわれた鞭を合図に、無数の刃がヘルヴォルへと飛びかかるのだった。
さすがに、相手が悪かったかな。ヘルヴォルの顔はゆがみ始めていた。だが、かろうじてすべての刃を叩き落としたとき、再び無数の弾丸がヘルヴォルを襲う。そう、無数の弾丸が。そろそろ、俺たちの出番だ。このときを、ずっと待っていたんだぜ。