天高く聳える塔の最上階、突如として開かれた扉から現れた一人の存在、扉の君。聖なる入口は聖暦の王により閉じられたはずだった。そこには悪戯に笑う一人の神が。だが、そんな神の笑顔が歪んでいたのは、自らを犠牲にし、愛する家族の為に全てを捧げようとした約束された未来に抗う一人の男がいたからだった。
やっぱり早く殺しておくべきだった。悪戯な神がこぼした言葉、それは自らの過ちを認め、そして償いに、家族を想い、北欧の神々の力を改変した道化竜へと向けられた。これが僕の再創です。いや、これは魔法です。そう、道化の魔法使いは最後の力を振り絞り、そして大切な魔法を、永遠に失うことになったのだった。
湖妖精と竜王が辿り着いた塔の最上階。相手をしてあげなさい。悪戯な神は、変わり果てた聖王に剣を握らせた。遠慮しないからね。湖妖精と竜王は全力で応戦。無駄な足掻きですよ。だが、余裕を見せていた悪戯な笑顔は曇り始める。はじめまして、神様。少し遅れ、その場に駆けつけたのは神の威を狩る神主狐だった。
応戦空しく、完全体へと変化を遂げた扉の君。焦りをみせる湖妖精と竜王、そして神主狐。さあ、黄昏の審判を始めましょう。笑顔を崩さない悪戯王と虚ろな堕王。笑ってんじゃねーよ。そう吐き捨てた天上獣は観測者を送り届け空へと消えた。そして隣りには、四人の男女が立ち並んでいた。さぁ、反撃を始めようか。
聖暦の王により閉じられた扉は悪戯王により再び開かれた。だが、道化竜の償いによる二度目の裏切り、想定よりも早い解放、現れたのは不完全な扉の君だった。神へ抗う塔の最上階、開かれた扉により始まった黄昏の審判は終焉を迎えようとしていた。
グリモア教団には、名も無き教団員が存在していた。少年が、いつの時代から所属していたのか、いつの時代から存在していたのか、その事実を知るものは少なかった。気がついたら、その少年は教団に存在していた。僕は、初めから存在していたんだよ。そう、教団設立時から、少年はずっと存在していたのだった。
教団設立当時から仕組まれていた計画。人は悲劇を乗り越え、強くなる。だったら、悲劇の当事者が必要だよね。それは、教祖という記号だった。数多の教祖が死を迎えるたびに、創り出される偽りの教祖。だけど、それも今日までだよ。見届けようか、完全なる落日を。推薦状にはメイザースという名前が書き込まれた。
西魔王が横たわる西館の隠し部屋、東魔王の心が打ち砕かれた東館、北魔王の信念が切裂かれた北館。そんな三つのモニターに、教団員の視線と心は釘付けだった。そして、誰の興味の対象でもなかった平和で静かな南館に設置されたカメラが一瞬だけ捕らえた人影。直後、モニターが映し出したのは、ただの砂嵐だった。
君の行動は、想定内だったよ。メイザースは少し遅れて映されていた西館から続く隠し部屋をモニター越しに見つめていた。君の役目は、果されたんだ。西魔王に差し向けられた西魔王。そして君は、永遠に語り継がれるだろう。教団の為に死んだ、完全な存在としてね。あがいても無駄さ、逃げ道はどこにもないんだよ。
メイザースのすぐ近く、新たな東魔王はそこにいた。君の代わりは、すでに用意してあるから。見つめた先は東館を映したモニター。こうなることは、初めから知っていただろ。なのに、どうしてそんな瞳をしているんだい。その問いは、共にモニターを見つめる堕風才に向けられていた。さぁ、お別れの言葉を贈るんだ。
ドラマは、こうじゃなくちゃ。北館を映すモニターには、予期していた乱入者の姿があった。やっぱり、姫様を取り返しに来たんだね。浮かべたのは余裕の笑み。それとも、僕を始末しに来たのかな。崩れない笑み。いいよ、もっと派手に暴れてよ。抑えることの出来ない笑み。僕はずっと、君達に会いたかったんだから。
大分鈍ったんじゃねぇのか。オベロンの放つ闇をいとも簡単に弾いてみせるヴラド。そして弾かれた闇が壊す美宮殿の煌びやかな装飾。それじゃ、こっちからいかせてもらうぜ。現れた棺から生まれる無数の光の竜。さぁ、すべてを喰らい尽くしちまえ。
ひとりの王が攻撃が繰り出すたびに、美宮殿は悲鳴をあげる。激しい音と共に築かれる瓦礫の山。オレ達の舞台にしちゃ、ちょっともろすぎるんじゃねぇか。すでに失われた宮殿の姿。そして、そんな宮殿の上空でふたりの王は変わらず対峙していた。
天界の軍勢も、魔界の軍勢も、ただ上空でぶつかり合うふたりの王を見つめていた。いや、見つめることしか出来なかった。少しでも目を離せば、ふたりの姿を見失ってしまう。そう、ふたりの王の戦いは、目で追うだけで精一杯だったのだから。
かつて、光と闇がぶつかり合ったように、再びぶつかり合う闇と光。どうにか、持ってくれよ。ヴラドが気にかけたのは、仮初の時間。だが、その願いは散る。オベロンの放つ衝撃。それを受け止め切れず、ヴラドの体は地へと打ちつけられたのだった。
くそっ、こんなときに。それでもすぐに立ち上がるヴラド。そんなヴラドの瞳に飛び込んできたのは、ただ上空のオベロンを見つめる、天界、魔界の両軍勢だった。そして、ヴラドはその眼差しがなにを意味していたのか、すぐに理解したのだった。
ヴラドを地へと堕とすほどの圧倒的な力。そう、オベロンへ向けられたのは賞賛ではなく、ただの恐怖だった。そして、天界、魔界の両軍勢は同じときに、同じことを想う。互いに協力し、滅ぼすべき相手は、禁忌の血を引くオベロンではないのか、と。