君はもう自由だ。見つめ合う蒼い瞳。アオトは優しい声で語りかける。君の罪は、僕が留め続けるよ。差し出された手に視線を落とした西魔王。君は、その手を掴むのかい。その声はいない筈の三人目の男の声。危ない。刃が貫く体。僕が、西魔王です。
手を貸すよ。新たな水の正体は、堕水才の隣りに現れた水波神だった。相手は、子供一人か。布越しに聞こえた声。うるせぇ、チビ。オマエら、まとめてぶっ潰す。全身全霊を注ぐアスル。二人めがけて振り下ろされた槌は、三人を支える地面を砕いた。
あの日の私たちの王様は正しかった。私はこの戦争に勝って、それを証明する。そして、いまの彼は間違っていると証明する。今も昔も、ファティマの心はかつての魔王の姿に縛られていた。だから、鞘を探していたのね。ヴィヴィアンはそっと呟いた。
ファティマが鞘の力を使い、再生させたかったのは、かつての魔王そのものだった。だが、それを待たずして蘇った堕魔王。そして、そのヴラドの体も、命も、すべて仮初に過ぎなかった。私の手で、彼を蘇らせるのよ。そう、気高き魔界の王として。
だとしたら、やっぱり負けるわけにはいかないね。ヴィヴィアンはファティマの理想を否定した。いつかは、こうなるってわかってた。だけどね、私にもね守らなきゃいけない子たちが沢山いるの。だから、いまこそすべての因果を断ち切らせてもらう。
もし魔界が敗北し、今度こそ完全なる敗北が訪れたら。それは、統合世界における古から続く争いの終結であり、平穏へと繋がる。だから、私達にけしかけさせたのね。ヴィヴィアンの無言が意味した肯定。きっと、あの日の彼もそれを望んでいたから。
開かれたのは王の間の扉。一歩ずつ、一歩ずつ、響き渡る足音。うつむくことなく、ただ真っ直ぐに前を見つめ、紫色のストールだけが揺れる。久しぶりね。うん、久しぶり。こうして、ふたりの女王の再会は、ひとしれず静かに果たされたのだった。
単刀直入に言うわ、いますぐ負けを認めなさい。ヒカリを見つめる視線。断るわ。ユカリを見つめる視線。交わったふたつの視線の間に生まれる緊張。言葉で分かり合えないのなら、することはひとつしかないわね。ユカリは大鎌を構えるのだった。