黄昏の審判は幕を閉じ、落ち着きを取り戻した統合世界。だが、依然と三つの世界は交わったままだった。そして、そこに新たに交わってしまったのが竜界<ドラグティア>だった。新生世界評議会に常界代表として送り込まれたコードネーム・レディはレンズ越しに、姿を消した一人の王の行方を見つめていたのだった。
今日の会議はどうだったのかしら。世界評議員レディの元を訪れたのは眼鏡の聖銃士。相変らず、平行線よ。それは天と魔のいがみ合い。そっちこそ、どうなのよ。私達は待ち続けるわ。それは帰らぬ一人の王。でも、あの二人は。消えた二人の聖銃士。大丈夫、きっと彼らに考えが。だが、その瞳は地面を見つめていた。
魔界を代表して新生世界評議会の会議の場に現われたディアブロは口を閉ざしたままだった。魔界から天界への戦線布告に対し、未だ満足のいく回答を得ることが出来ない魔界。圧倒的に有利な戦力を揃えつつも、武力行使しない理由は不明だった。そして、そんな彼の元、水の悪魔と共に、神となった水の悪魔は訪れる。
現世界評議員のディアブロにとって、元世界評議会所属の研究者である水才は見逃せない存在だった。口を閉ざした水才の代わりに言葉を発する水波神。離れていった聖暦の天才達の末路。もう世界評議会はお終いさ。行方不明の炎才と闇才、教団所属の水才と風才、天界についた光才、残された天才は無才だけだった。
喧嘩は良くないよ。新生世界評議会の会議の場、猫撫で声がこだまする。皆、仲良くしましょうね。その声の正体は第六世代自律猫型ドライバ、名前は【マダナイ】だった。調停役に就いた彼は常に平和を願っていた。だって喧嘩は必ず誰かが傷つくでしょ。偽りの笑顔、その言葉が偽善であることは、一目瞭然だった。
調停役マダナイがその役に就いた理由や経緯を知るものはごく僅かだった。各世界代表はおろか、最高幹部である三人にすら知らされず、その上位に位置する六聖人により選出されていたのだった。そんな彼の部屋に遊びに来た少女。私が第六世代、一番乗りっと。第零世代を生んだ神は、自らの手で新たな歴史を始めた。
何故、ロビンが天界代表として世界評議会に送り込まれたのか、それは世界評議員だけでなく、天界の妖精達も皆、頭を悩ませてしまうほどの事件だった。会議日時を間違えるだけでなく、会議場所の勘違いは毎度のこと、そして結果数時間の遅刻は当たり前だった。魔界と一触即発の最中、何故、彼女が選ばれたのか。
評議員にロビンを選んだのは紛れも無く光妖精王だった。彼女なりに考えがあってか、それとも何も考えずにか。ただ結果、魔界が武力行使に出ることはまだなかった。また、彼女は次の会議での報告事項が憂鬱だった。それは幽閉していた堕精王失踪の件。この事実を知る者は、天界でも僅か一部の妖精達だけだった。
黄昏の審判が終わった時、閉じられた聖なる入口の影響により統合世界に加わることになった竜界<ドラグティア>から代表して世界評議会に参加することになったのはナーガだった。ふんっ、下位なる世界など下らない。だがそれは皮肉ではなく、未だ上位なる世界に君臨する神界<ラグナティア>に対する嫉妬だった。
代表会議からの帰り道、ナーガが通りがかったのは評議会施設である訓練場。そこには相変らず汗を流し続ける特務竜隊の姿。変わった竜達がいたものだ。消えた文明竜、だが未だに彼らが訓練を続ける理由とは。それはあの時、竜王と聖銃士を取り囲みながらも、誰一人として攻撃することのなかった理由へ通じていた。
予定調和を狂わさないでくれないかね。会議室の窓が開いた時、そこに腰をかけていたのはスフィアだった。監視役として遣わされた彼はその後、一言も発することはなかった。彼が誰の推薦によりその役に就いているのか、それは調停役同様に、触れてはいけない真実だった。開かれた本は退屈しのぎなのか、それとも。
終わりを告げたのは監視役スフィアが閉じた本の音。会議室を後にした彼が声をかけたのは英雄。窮屈だろうに。答える英雄。全部ぶっ壊しちまいてぇよ。そこに招かれざる来客。邪魔をした君への罰さ。現れたのは元世界評議会の悪戯な神。面倒事を、起こさないでくれよ。監視役はその言葉を残し、常界を後にした。
部外者を推薦するなど、悪趣味な神もいたものだな。軽蔑の眼差しの征服神ギルガメッシュ。君は、歴史の目撃者なんだ。そう言い残し、消えた悪戯神。いつの時代も、歴史は美化され、そして英雄は作られる。仕方ない、掌で踊ってやろう。征服神ギルガメッシュは、新生世界評議会の最高幹部の席に就いたのだった。
与えられた衣食住、そこに不満はなかった。だが、いつまでも満たされない心。なんでだにゃん。秘書猫トキワの瞳に映るのは、慌ただしい毎日と、煮え切らない誰かの横顔。そっか、わかったにゃん。だから、彼は少年に寄り添った。そして、探り始める世界評議会に隠された真実。別に、誰かのためじゃないにゃん。
今動けば、積み重ねた時間が無に帰されるだろう。その言葉は、否定ではなく肯定だった。初めから、積み重ねるつもりなんてなかったけどな。だが、そんな覚悟を縛る鎖。忘れないでくれ、君に自由は存在しない。唇をかみ締める日々は、今も続く。