死刑執行人学園剣学部と対をなすように組織されていたのは、遠距離からの攻撃に特化した銃学部だった。入学時、四等悪魔である彼に名前と共に与えられた銃型ドライバ【フレイムバレット】は悪しき炎を魔弾として吐き出す。常界に鳴り響いた銃声、666人目の罪人は残り僅かな命に、後悔だけを思い返していた。
天界という世界は、妖精という生き物は、罪人よりも重い罪人です。そう教育されてきた彼は、三等悪魔に昇格し、銃型ドライバ【フレイミングブル】を一人の少女へと突きつけていた。かつて常界で出会った一人の悲恋の少女。君とだけは、再会したくなかったよ。緋色の瞳と、悲恋の瞳は、銃声と共に閉じられた。
同じ場所で生まれ、隣同士の家で育ち、一緒に大人の階段を上ってきた一人の友達がいた。二人一緒に死刑執行人学園へと入学を果たし、友達は剣学部へ、彼は銃学部へ、そこで与えられた氷の刃と、氷の銃型ドライバ【アクアバレット】。剣が強いか、銃が強いか、共に腕を磨き、そして共に一つの目標を掲げていた。
666人の罪人は姿を消し、新たな銃型ドライバ【アクアプス】と共に新たな名前を与えられた。友人から一歩遅れをとったが、決して焦ることは無かった。なぜなら、行き着く場所は、目標は一緒だから、と。それは同じ場所で生まれたという偶然と、同じ道を歩んできたという必然の、二つが重なっていたからだった。
死刑執行人学園銃学部である上に、放課後はサバイバルゲーム同好会での活動も楽しむ彼は、名前と共に与えられた銃型ドライバ【ウィンドバレット】の手入れを一日たりとも怠たることはなかった。寝る時でさえ肌身離さずにいる姿は、まるでプレゼントが与えられたばかりの子供の様であることに気付いていなかった。
666人の罪人などはただの通過点、放課後、新たなドライバ【ウィンドベクター】の手入れをしていると、通りがかりの妖刀型ドライバを手にした男は語り始めた。風に乗せ、遠くへと運ぶんだ、きっと風も喜んでくれるぜ。そして、颯爽と去っていく男。だが、その言葉は手入れに夢中な彼の耳へは運ばれなかった。
運動も勉強も出来ず、いじめられていた彼を助けてくれていたのは一人の光の悪魔だった。もう、守られてばかりは嫌だ。そう思い入学した死刑執行人学園。だが、近くで戦う勇気までは出ない彼が選んだのは銃学部、銃型ドライバ【ライトバレット】を握り締め、新しい毎日を心配しながらも少しだけ心を躍らせていた。
ゆっくりではあるが、三等悪魔へと。少しだけついた自信、新たな相棒【ライトイーグル】と共に用紙へ記入した新たな名前、それは新たな挑戦。真面目な彼は無事に生徒会書記に当選。早速舞い込んだ投書。そこに記されていたのは、恩人でもある光の悪魔が学園内で未許可で写真を売りさばいているという報告だった。
入学式の朝、死刑執行学園はいつになくざわついていた。様々な場所で飛び交う噂。そんな噂の正体は、長い髪をなびかせ、手にした銃型ドライバ【ダークバレット】と共に、他の生徒と同じ教室へと向かい、他の生徒と同じ席に着いた。他の生徒と違ったことがただ一つ、それは彼が学園長の息子だということだった。
入学式から途絶えることのない彼に関する噂。昇格試験が免除されている、特別なドライバが与えられている、など、まるで他の生徒の妬みの対象であった。だが、彼が銃型ドライバ【ダークスパス】と名前を手にした過程に嘘偽りはなく、そして、くだらない噂に混在した一つの奇妙な噂に気付く者はごく少数だった。
五限目の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。そんな時、教室の扉が開かれたのは内側ではなく、外側からだった。すかさず投げつけられたチョーク。だが、そんな刹那でさえ見切った男がいた。あぁ、おはようございます。そう言いながら教室の敷居を跨いだのは銃型ドライバ【ノーンバレット】を手にした無の悪魔だった。
おばちゃん、チョコポックルまん5個。ぶっきらぼうな声が聞こえてきたのは購買部。たまにはまじめに授業でなさいね。優しい声とおつりと、そして彼の朝ご飯が手渡された。これ食べたら授業出るよ。そう言いながら、空腹の胃を満たしていた【ノーンマラティオ】は、既に放課後だということに気づいていなかった。