合言葉はギャラクタシー、銀河系アイドルというコンセプトで活動しているベガは踊ることが大好きだった。ただ、その想いは常界にのみ訪れる夏にだけ輝いていた。切ない秋、寒い冬を越え、暖かな春を迎え、そして訪れた晴天の真夏、今までの溜まりに溜まった想いを空へと打ち上げる。そう、ついに舞台は宇宙へと。
銀河嬢ベガが送り出す楽曲は瞬く間にトリプルミリオンセールスを記録した。歌にダンス、そしてそのパフォーマンスを見た者はみな、口を揃えてギャラクタシーという歓声をあげた。街を歩けば耳に入り、そして目に入る楽曲。ただ、その楽曲やミュージックビデオに込められた恐ろしき願いに気付くものは少なかった。
ふわふわ漂う空、気が付けば、そこは宇宙だった。ふわふわ堕ちる空、気が付けば、そこは常界だった。そして、気が付けば、形は変わらずとも、色は変わり、自らの持つ力も変化していた。そんなソラリウムは宇宙で何を見たのか、いや、何も見てなどいないのか、ただその姿はこの統合世界の理から外れたものだった。
特殊変異を起こした体のまま、再び統合世界に適応をし、そして成長を遂げたコスモリウムは、まるで宇宙を内包したかのような見た目をしていた。ただ、その贅沢な見た目に反して、基本能力などは至って低いままであり、突然目の前に現われたからといって、何か危害を加えるような行動を起こしはしなかった。
ささぽっくる は おささのこ ささぽっくる は ねがいごと ささぽっくる に ささようじん わるいこ どこのこ ささぽっくる ささぽっくる は おささのこ ささぽっくる は おほしさま ささぽっくる に ささようじん わるいこ どこのこ ささぽっくる (ぽっくる民謡 第笹節より抜粋)
サーサササササ サササササ サーサササササ サササササ おいらのなまえをしってるか おいらはささをさっさっさ サーサササササ サササササ サーサササササ サササササ おいらのなまえをいってみろ おまえのささをさっさっさ おいらのなまえはササポックルン (ポックルンのうた 笹番より抜粋)
常界の被災地に配られたチラシ。旧グリモア教団の壊滅と共に、芸能界から姿を消した銀河系アイドルのベガが、被災地でゲリラライブを行うという触れ込みだった。そして、被災者達は少しの期待を胸に、瓦礫の山へ。午後7時、ライトアップされた瓦礫はステージへ。みんな、ただいま。合言葉は、ギャラクタシー。
幾億の星に抱かれた館で繰り広げられていたのは大人気銀河系アイドルの大コンサート。振りかざされるサイリウム、飛び交う黄色い歓声、色とりどりの照明がステージを照らす時、銀河絶頂ギャラクタシーへと誘う扉が開かれる。銀河を感じられるか。
銀河系アイドルを支える作曲家であり、銀河系プロデューサーでもあるアルタイル。ライブではマニュピレーターを担当し、人によっては二人一組のユニットであると捉えられることも多い。隠した素顔を知る者は相方である銀河系アイドル以外に存在せず、また大手レコード会社の社長でさえも見たことがないという。
銀河系プロデューサーがプロデュースしたかったのはアイドルではなく、偶像崇拝という行為そのものだった。歓声に囚われた心は自我を忘れさせた。そして訪れた暴動、加速するギャラクタシーは小国であれば崩壊へ導くのに十分だった。銀河男アルタイルは、また夏に会おう、とだけ言い残し、行方をくらませた。
聖暦××××年、××月××日、常界某所。ライトアップされた瓦礫の上に準備された特設ステージ。まるで宇宙に星が煌くようなSEと共に登場したのは、超銀河嬢と超銀河伯アルタイル。1曲目、お馴染みの『スターキャンディ』のイントロが流れ始めると、オーディエンスのボルテージは早くもギャラクタシーへ。
銀河系アイドルのその裏側で支えるのは、統合世界で唯一の銀河系プロデューサーだった。ヘルメットに隠されたその素顔は、怒っているのか、笑っているのか、それとも涙を流しているのだろうか。そして、彼が本当にプロデュースしたいものとは。