少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。小さな体で軽々しく振り回す棍型エレメンツドライバ【フォンシェン】が巻き起こす風が止んだ頃にはもう、既に嵐の前の静けさに終わりを告げ、開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>へ駆け出したミドリはいない。
聖なる出口<ディバインゲート>へ駆け出したミドリ。「風」を纏う者は風に乗り、風になる。進化したドライバ【アル:フォンシェン】は新たな風を生んだ。だけど彼女は怖かった、この風が止んでしまうことが。だから今はただ駆け抜ける、置き去りの昨日に、諦めた夢を忘れる為に。例え、向かい風が吹こうとも。
大きな風を巻き起こす新たなドライバ【サン:フォンシェン】を手に、ひとり先に常界<テラスティア>へと向かったミドリ。そう、気付いてしまった約束された未来を変える為、誰よりも早く駆け出した。けれどその想いは焦りとなり、浮き足立つ心。地に足をつけることを忘れた彼女の前に、静けさの後の嵐が訪れる。
天高く聳える仙境、蓬莱郷<ホウライ>で流す汗。誰よりも早く駆けることが出来ていたら。風を止め、汗と共に流した悔し涙。やがて、風精王が起こした竜巻に乗り、皆の前に現れたミドリ。風と遊び舞い踊る竜が如く、生まれ変わった【フォンシェン:カグラ】を元気いっぱい振り回した少女は今、再び駆け出した。
風の起源<オリジン>であり、風を司る大精霊シルフは天界<セレスティア>では今日も風を巻き起こす。振り回す足、巻き起こる風が運ぶ様々な花の香。それは常界<テラスティア>の四季を知らせた。まだ若い棍士が起こした風は、噂となり彼女の元へ。心躍るがままに、新たな風を起こす存在を楽しみにしていた。
シルフは風を纏いし少女と共に蓬莱郷<ホウライ>へ、そこは冷たい風が吹きすさぶ天高き仙境。その全ての風を集め、そして止んだ風、風と風の共鳴<リンク>は新しい時代の風を生んだ。風精王へ生まれ変わったシルフは愛弟子と可愛がる少女を送り届けようと、その新しい時代の追い風になるよう、竜巻を起こした。
風精王へと届けられたのは戦友でもある風の美女が耳にした隠された裏側。直後、巻き起こる竜巻、両目が閉ざされた第五世代自律兵器型ドライバ【マイカゼ】の急襲。彼女が起こした竜巻は、悲しみに満ちていた。その悲しみは、数年前、天界の歪な平和の為に都合の良い犠牲にされた一人の妖精の悲しみにも似ていた。
彼女の破壊は、一人の妖精の存在の否定、風精王は身動きも取れずにいた。だけど、風を纏いし少女はあっさりと言う。友達だったら、間違いを止めなきゃ。風の龍が迷いを、全てを振り払う。再起動<リブート>の果てに目覚めた【マイカゼ:カグラ】を見つめ、少女は諦めたはずの夢を共に夢見た友を思い出していた。
背中に感じたのは追い風、巻き起こるのは高揚感。今はもう、振り返らない。昨日は置き去りのまま、新しい自分で、新しい君と、未だ見ぬ明日の中、正面から向き合う為に。引かれていた後ろ髪を振りほどき、諦めた夢と共に、聖なる扉へと。