友を東館へと見送り、アオト達は北館の前を通り過ぎようとしていた。西館にお連れしないと、怒られちゃいますからねっ。そうおどけてみせたのは流水獣。だが、そんなアオト達の後ろ、大剣を携えた影が忍び寄る。どうして、オマエらがいるんだよ。
久しぶりだな、クソチビ。その言葉とは裏腹に、嬉しそうな表情を浮かべるライル。うっせーよ、チャラ男。怒りながらも笑ってみせたアスル。そんな二人を、優しい瞳で見つめるアオト。三人はそれぞれの想いを胸に、教団本部へと突入するのだった。
ライルと別れ、向った西館。入口で待っていたのは、ただ一人の教団員だった。連れて来ましたわ。流水獣が駆け寄ったのは優しい笑顔の水通者。安心して、私は君の敵じゃない。ただ、会わせたい人がいるの。そしてアオトは、無言で頷いたのだった。
会いたかったよ、兄さん。隠し通路を抜けた先に待っていたのはアオトの血を分けた弟、西魔王だった。語られる真実。出来の悪いフリをしていた兄と、出来の良いフリをしていた弟。もう、僕に残された時間は少ない。だから、最後に決着をつけよう。
両親の歪んだ愛情を受け入れられるほど、あの日の二人は大人じゃなかった。愛を愛だと理解するのには、時間が必要だった。だから僕は、僕を肯定し続けるしかないんだ。研ぎ澄まされた水の刃が貫いた体。どうして、よけてくれないんだよ、兄さん。
君はもう自由だ。見つめ合う蒼い瞳。アオトは優しい声で語りかける。君の罪は、僕が留め続けるよ。差し出された手に視線を落とした西魔王。君は、その手を掴むのかい。その声はいない筈の三人目の男の声。危ない。刃が貫く体。僕が、西魔王です。
引き抜かれた刃から滴り落ちる血。駆け寄る西魔王。あの日、あなたは私の手をとってくれた。なんで。だから次は、あなたがお兄さんの手をとる番だよ。どうして。あなたと過ごせて、私の現世は最高でした。西魔王の腕の中、水通者は瞳を閉じた。
教団地下祭壇のモニターに、西館から続く隠し部屋の様子が映されていた。横たわった金髪の男が流す血は、身にまとった黒いスーツを赤に染めていた。皆さん、失踪していた西魔王も、教祖様の為に、我々の為にと、最期まで戦ってくれていたのです。