だが、子供はなにも答えなかった。答えられなかった。なにかを与えられるという喜びを知らなかったから。だから、ニコラスは尋ねる先を変えた。向かったのはその子供の母親が幽閉されていた間。そして、その日は奇しくも12月23日だった。
現れたニコラス。女が悟ったのは自分の最期。そして、ニコラスは問う。なにかあの子に与えたいものはあるか。そして、女は涙ながらにこう答えた。どうか、あの子に最高のクリスマスプレゼントを。そう、明日は年に一度のクリスマスイブだった。
訪れたクリスマスイブ。廃棄という任と共に、禁忌の子を預けられたニコラス。向かった先は聖夜街の外れ。これが俺からのプレゼントだ。自分の息子が通るであろう道に置かれた禁忌の子。仕組まれていた出会いの答えは、ふたりからの優しさだった。
必然の出会いを果たした禁忌の子であるアーサーと、ニコラスの息子であるサンタクローズ。そして、サンタクローズがついた小さな嘘。やがて肯定される禁忌の命。ニコラスはただ嬉しかった。聖人でありながら、ふたりの子供の父親になれたことが。
だが、幸せはそう長くは続かなかった。禁忌の血が生きているという密告。呼び出されるニコラス。そして、ニコラスへ与えられた罰。それは、二度と子供たちに会ってはならない、というものだった。これも決定か。こうして、ニコラスは姿を消した。
子供たちは知らなかった。なぜニコラスが姿を消したのか。切り取られた家族写真。子供たちは知らなかった。なぜニコラスが決定に従ったのか。すべては子供たちを守るため。そう、ニコラスはすべての事実を抱え、たったひとり姿を消したのだった。
聖人として生きるニコラスの楽しみはひとつ。使徒ドロッセルが集積した子供たちの成長の記録。抱きしめることも、会うことすらも叶わない子供たちの成長の記録。ただ遠くからその成長を見守ることだけが楽しみだった。あぁ、いい大人になれよ。
やがて刻は経ち、ふたりの子供は別々の道を歩き出した。アーサーに届けられた世界評議会への推薦状。どうして、普通に生かしてやれないんだ。怒りを堪えるのに必死なニコラス。だが、そんなニコラスを牽制する決定者たち。君は父じゃなく聖人だ。
やがて、何の因果か、聖なる扉の前で堕ちたアーサー。そんなアーサーを昔からの名前で呼び続けるサンタクローズ。その一部始終を遠く離れた場所から見つめることしか出来なかったニコラス。こんな結末になるくらいだったら。俺はイマの世界を―。
だが、ニコラスが思い留まったのは、最期のときまでアーサーの瞳が真っ直ぐだったから。あぁ、これはアイツが望んだことなのか。子供が自分の足で進んだ未来を、否定する親がいるだろうか。だからニコラスはアーサーを肯定しようとしたのだった。