じーさん、俺たちがアンタらと戦う意味はねぇ。だから引いてくれ。ギンジはブラウンと対峙していた。あの頃の、力まかせの少年が嘘のようだ。随分と大きくなったのだな。少し嬉しそうなブラウン。だがな、私たちには君たちと戦う理由があるんだ。
剛と柔。ぶつかるふたつの力。己の力を過信するな。それはかつての教え。そして、劣勢なのはギンジだった。どうして、俺が押されるんだ。答えるブラウン。私には迷いがない。君には迷いがある。戦場に迷いを持ち込むな。それがいまの教えだった。
なにを迷っている。防戦一方のギンジ。わかってる、わかってるよ。やりきれない想い。君が正しいと思うのなら、私を倒し、そして進めばいい。武器を手にしたのならば、その覚悟をみせてみろ。戦場に迷いを持ち込むな、それは最後の教えとなった。
昼時を過ぎ、人のいなくなった世界評議会の食堂、窓際の席、そこはアーサーの特等席だった。ただ注文された料理を作るブラウンと、ただ注文した料理を口にするアーサー。ふたりのあいだに会話はない。そんな関係こそが、ふたりの始まりだった。
何者かの推薦による評議会入りのアーサーが妬まれるのは当然のこと。彼を良く思わない者もいた。そしてある日、食堂で起きた小競り合い。アーサーに非はない。だが黙って殴られるアーサー。そんな小競り合いに割って入ったのはブラウンだった。
老いぼれが出しゃばんな。矛先はブラウンへ。だが、元警備局のブラウンの腕は確かだった。一瞬にして静まる食堂。ブラウンはアーサーへ問う。なぜ抵抗しなかった。そこで初めてアーサーは口を開いた。小競り合いなど進む道の妨げにしかならない。
そしてアーサーは少年のような笑顔を浮かべた。あと、もうひとつ。俺の進む道に、じーさんが必要だ。アーサーはブラウンの一撃を見逃さなかった。だが、私は若者の未来の為に。だったら、その腕で未来を示せ。その一言がブラウンの人生を変えた。
与えられたコードネーム、ガレス。料理の腕は特務機関入りしたあとも健在だった。ディバインゲート遠征前の晩餐、用意した心温まる料理。いつかまた、このスープが飲みたいな。そんなアーサーの言葉から、ガレスは覚悟を感じ取っていたのだった。