あぁ、俺に名前はない。アインが捨てたのは「W」の一文字。だから、もう一度生まれ変わってやるさ。あの日、彼が憎んだのはたったひとり。それと、借りを返さなきゃなんないからな。すっきりとした表情で、災厄へと向かう。そうさ、俺は俺の居場所を見つける。俺は俺という人間だということを、証明してやるよ。
もう、涙は流れない。ツヴァイが捨てたのもまた、「X」の一文字。世界には悲しいことがいっぱいなのかな。だとしたら、僕はそれを受け入れるよ。存在していなかった少年が自覚した存在。僕は僕なんだ。否定された過去と、塗り替えられた現在。僕がここに来たのは、災厄を起す為なんかじゃない。止める為なんだ。
見つめていたのはある日の写真。幼き自分と、兄と、その幼馴染の少女、金髪の少年。そんな四人に優しく寄り添う亡き母は左端に。破りとられた右端。どすん。暖炉から聞こえた賑やかな音。いつも、ごめんな。私は、いつだってお兄ちゃんの味方だよ。聖鐘女イヴは、準備をすました兄を見送ることしか出来なかった。
ひとりの男は、ただ見つめていた。起きた災厄と、奮闘する人々を。その男は、ただ耳を澄ましていた。悲鳴と、歓声へ。その男は、ただ感じていた。世界の痛みと、世界の愛を。その男は、ただそこにいた。常界から遠く離れた神界の玉座に男はいた。