裏切り者だなんて、ずいぶんと酷い言い方じゃないか。水仙卿と流水竜が対峙する最中、間を割るように現れたのは裏古竜衆のファブラだった。君が会いたがってるから、来てあげたんだよ。それは水仙卿への言葉。だけど君は、会いたくなかったみたいだけどね。そして、それは憎悪で顔を歪めた流水竜への言葉だった。
竜王家には、古の時代より仕える古竜衆と呼ばれる部隊が存在していた。だが、かつての戦争を機に、古竜衆の半数は竜王家から離反し、そして離反した者たちは、いつからか裏古竜衆と呼ばれるようになった。光竜将ファブラもそのひとりであり、そして彼が将でいたのはまた、仕えるべき者が存在していたからだった。
忘れ去られた地、ウェルシュアの古城の一角で世界を見渡すことの出来る鏡を眺めていたニズルは対峙した3人を眺めていた。もう少しだけ、放っておきましょうか。その言葉から滲む余裕。俺たちは、俺たちらしくやろうぜ。返された言葉。だが、その言葉はもう一人の来訪者により、意味を変えることになるのだった。
裏古竜衆のひとり、闇竜将ニズルの主な役割は諜報活動だった。いま統合世界で起きているすべての出来事の裏側を把握していたのだった。こんなときだっていうのに、彼女が動き出しました。鏡に映された白衣の女。きっと、これから訪れる災厄を予期してのことでしょう。アレの解放は、彼女たちに任せましょうか。
古城の玉座、その一番すぐ近くでウロアスは片膝をついていた。そんなに固くなってんなよ、もっと楽にいこうぜ。紅煉帝に救われた命は、紅煉帝のものですから。だったら、ちょっと遊びに付き合ってくれ。始まった遊び。遊びという名の力のぶつかり合いは、抑制された空間でなければ小国が吹き飛ぶほどの熱だった。
やっぱりオマエは俺に相応しい将だ。息ひとつ乱すことのない無竜将ウロアスへの賛辞。準備運動はこのくらいで十分だろ。そして紅煉帝は裏古竜衆の三人をひきつれ、声高らかに宣言をする。さぁ、俺たちの、世界で一番小さくて大きな反乱を始めようか。竜王家を追放された紅煉帝の反乱対象は、竜王家か、それとも。
本気出さなきゃ失礼だろ。その言葉に笑顔を返す光竜将。オマエは帰って、報告でもしてろよ。立つだけで精一杯の水仙卿。で、オマエはひとりじゃ立てないのか。傷だらけの流水竜。早くガキを連れて帰れ。流水竜を抱きかかえていた竜神。俺たちは俺たちらしくやらせてもらう。だからオマエも、オマエらしくやれよ。