『ほらほらっ! 早くしなきゃ、置いてっちゃうからねー!』 陸上部に所属する彼女は走ることが好きだった。よく道路に飛び出しては止まれず、そして車にぶつかり、晴空の星になるの。あぁ、あれはいつものことだから。心配ひとつしないお下げ髪の幼馴染。そして次の場面、なに食わぬ顔でミドリは笑っていた。
『みんなで一緒に食べたら、きっと、もっと美味しいよっ!』 料理部のファンタジーと呼ばれる彼女は、いつも笑顔を絶やしはしなかった。そして、その笑顔はみんなを笑顔にする。だが、そんな笑顔の彼女を悩ませる人物が。どうしたら、お姉ちゃんと仲良くなれるかな。聖学にはヒカリと半分血の繋がった姉がいた。
『少し、静かにしてくれるかしら。今は二人で過ごしたいの』とある日の放課後、まだ利用可能時間であるにも関わらず図書室の鍵はかけられた。今日は、二人きりで過ごしましょう。夕日に浮かぶ並んだシルエット。ユカリが大好きな少女に読み聞かせるのは、世界でたったひとつの物語。二人だけの、秘密の物語。
『ったく、なんで俺から行くんだよ、学園がこっちに来いって』意味のわからない理屈を並べては、ことごとく家を出ることを拒むサンタクローズ。慌てんぼうとか、あれ嘘だから。だが、妹と幼馴染に連れ出される運命。そっか、学園がなくなれば、行かなくてすむんだな。そして、学園の窓ガラスは音を立て始めた。
『…………………………………………………………(ポっ)』 温かな春の日、期待と緊張で胸がいっぱいのトラピゾイドは新しい制服に袖を通し、新しい毎日へと歩き始めた。咥えた食パン、少しついた寝癖、始めての曲がり角。そこで聞こえた、恋に落ちる音。そう、その日初めて、彼女は桜色の恋をしたのだった。
『当たり前だろう、私たちは共に季節を過ごしてきたのだから』学園のアイドルの親衛隊長であるパイモン。なぜ、彼女が学園のアイドルを守るのか。それは彼女にとって、妹のような存在であり、娘のような存在だったから。これからも、私が側にいよう。少し過保護とも思われるような態度も、すべては愛ゆえに。
『だから僕は、兄さんが大嫌いだって言っているだろう!』 聖門学園の名物、それは優等生の兄と、劣等生の弟の双子。そして、そんな劣等生である弟のアリトンは、優等生な兄が大嫌いだった。それゆえ、渡り廊下ですれ違う度に行われる決闘。だが、どこからどうみても、兄に構って欲しい弟にしか見えなかった。
『俺は犬じゃねぇ! 狂犬でもねぇ! 聖学のジャッカルだ!』だが、アマイモンは興奮すると、尻尾を振る癖があった。ジャッカルを自称するが、ジャッカルとは動物界、脊椎動物亜門、哺乳綱、ネコ目、イヌ科、イヌ亜科、イヌ属であり、犬である。一部からは聖学のアイドルの忠犬と揶揄され、本人だけが知らない。
『悪いけど、半年先の放課後まで、予定は埋まってるからさ』 聖学で1、2を争う色男のランスロットは、自分の思うがままに女子生徒と楽しい時間を過ごしているが、そんな彼でも調子を狂わされる存在が二人いた。一人は聖門学園の『王』を自称し始めた男。そして、もう一人は『育ての親』を自称する女だった。
『趣味ですか? そうですね、お兄様の一本釣りでしょうか』 聖学の神出鬼没の不思議少女シオン。なぜかいつも釣竿を持っているが、決して池で鯖釣りをして、副会長に怒られるというわけではない。ただ、大好きなお兄様を釣りたいだけである。だが、そんな美味しそうな肉まんを横取りしようと狙う狂犬もいた。
『そうだな、特技は貧血だ。よく倒れる。だから介抱してくれ』聖学の中で誰よりも顔色の悪い養護教諭。貧血持ちで、一度死んでいる。数学教師と帰宅部顧問とは近所住まいであり、仲良しでもあり、ライバル同士でもある。そして、そんな三人の出会いは何年も前の聖学の入学式であり、聖学の卒業生との噂だった。
『ふふふ、この世界はね、ボクの思い通りの世界なんだから』 聖門学園は理事長の絶対的な力により運営されていた。自分の思い通りの世界を作り、そんな箱庭で楽しそうにしている生徒を嬉しそうに眺めるロキはなにを思うのだろうか。本当は君も、参加したいんじゃないの。それは彼の隣に座る神童の言葉だった。
もう少しだけ、夢を魅せてあげようか。そして、再び聖門学園への扉は開かれた。さぁ、好きなだけ酔いしれてくれて構わないよ。汚れた校舎、昼休みの購買、放課後の校庭。そこには、誰もが恋した、いつかの暖かな毎日が存在していたのだった。
力を合わせなかった文化祭、汗水流さなかった体育祭、適当すぎる授業、そんな毎日が愛おしい。それは、その全てを失ったからこそ、抱く感情。だからこそ、いまだけは、泥にまみれた永遠の青い春を求めて。嫌いだった世界へ、世界で一番の恋を。
僕達はいつか、大人になる。きっと、辛い毎日が巡ってくる。だから、思い出に溺れたっていいじゃないか。そんな、溺れられるくらいの思い出を作ろうよ。そして、聖門学園の生徒が一丸となり【一部除く】、とあるイベントが企画されたのだった。
生徒一同が乗り込んだのは理事長室。どうか私達に最後の思い出を作らせて下さい。だったら、条件を出させてもらおうか。そして出された条件とは。明日、全生徒、教師が遅刻をしなかったら叶えてあげる。イベントはあっけなく中止となった。