これは、もしもの話。海に遊びに来ていた六人。誰が言い出したのかなんて、どうでもいい話だった。満面の笑みのアカネが用意したスイカ。だが、その笑顔を引きつらせたのは刀を手にした水の少年。おい、それは卑怯だろ。だが、二人は楽しそうだった。この勝負、僕は負けられない。そんな、熱い夏の一日が始まる。
ねぇ、なんでシャチじゃないの。アオトが手にしたサバフロートに興味津々の風の少女。だが、そんな問いに平然と答える水の少年。大切な人に、貰ったんだよ。そして、大きなサバを小脇に抱え、駆け出した砂浜。晴天の夏空の下、輝きを増した海は呼んでいる。夏を追いかけようよ、夏が逃げる前に、僕達だけの夏を。
賑やかな水着になって、初めてわかる日焼け跡。意外と焼けてるね。対照的に白い光の少女。でも、昔はもっと焼けてたんだよ。ミドリが話す思い出、それは幼き夏の日。緑に囲まれた田舎町、外で遊ぶしかない少女を照りつける太陽。だからね、私、海に来たのは初めてなんだ。夏は、少女たちを焦がしていくのだった。
甘い匂いに誘われて海の家へと向かったヒカリ。みんなの分もだね。炎の少年にはイチゴ、水の少年にはブルーハワイ、風の少女にはメロン、無の少年にはミゾレ、だが、闇の少女の分だけはなかった。ごめんね、丁度良いのがなくて。そして、そっと差し出した二つのオレンジフラッペ。だからね、私とお揃いにしたよ。
パラソルの下、夏から逃げるようにカーディガンを羽織っていたユカリ。どうした、泳がねーのか。話しかけてきた無の少年。事情があるのよ。だが、そんな事情は、浮き輪を見れば一目瞭然だった。もしかして、泳げないのか。し、失礼ね。そして、少女は夏へと駆け出す。泳いでみせるわ。夏はまだ、終わらない。
サーフィンを楽しむギンジは沖へと流されていた。辿りついた離れ小島、途絶えた連絡手段、沈み始める夕日。俺はまだ、終われない。だが、奇跡は起きた。なんだ、島の裏側にいたのか。そこには炎の少年が立っていた。涙を浮かべながら喜ぶ無の少年。こうして、暑い夏の一日は終わりを告げた。これは、もしもの話。
私にも、声かけてくれたんだ。笑顔のロジン。だが、不機嫌な西魔王。そんな彼の機嫌が直る出来事が。北魔王さんからだって。何故か釣りを楽しんでいた北魔王。やっぱり、塩焼きね。それは南魔王の配慮。けひひ。そんな光景ににやつく東魔王。なぜ笑っている。意味のわからない教祖。いつかの、夏のひと時だった。
休みも必要ね、と、南魔王が計画した夏休み。護衛には四大魔王達が。しぶしぶ付き添う北魔王と西魔王、楽しそうに水着を選ぶ東魔王。ひと時の休息、貸切の浜辺、幸せな夏。だが、クロウリーは悩んでいた。なぜなら、彼女の左右にいたのは、水着姿の南魔王と東魔王だったから。どうすれば、大きくなるのだろうか。
これは、もしもの夏の終わりのお話。六人の少年少女が降り立ったのはとある路面電車の駅。照りつける太陽で汗ばむ肌、晴れ渡った青空に眩む瞳、透き通った海が弾ませる心。走り出した僕達を、誰も止められない。さぁ、終わらない夏を追いかけて。
おい、まじかよ。常夏の楽園で遭難した一人ぼっちの少年。にゃお。その猫の声は、少年の孤独な気持ちを和らげた。なんだ、オマエ腹空いてんのか。そして、少年は海へともぐる。これでも食え。にゃあ。ほんのひと時、そこには友情が芽生えていた。
なんであなたは、そんなに笑っているの。ユカリの疑問。なんでって、なんでかな。ヒカリにはその質問の意味がわからなかった。対象的な二人の間に流れる時間。うーん、やっぱりわからないよ。だって、楽しいから、ってこと以外に、あるのかな。
帰りの路面電車。遠ざかる海。満足げな寝顔を見せる5人の少年少女。だが、ひとりだけ目を開けたままの少女がいた。窓から見上げる夏の夜。肩にもたれかかるヒカリの柔らかな体温。不思議ね、どうしてかしら。ユカリは一人、笑顔を浮かべていた。