あなた様に、ずっとお会いしとうございました。そんな言葉と共に、水咎刀士の前に現れた少女マリナ。わたくしが、あなた様のお力になってみせます。そして、ぶんぶんと碇型ドライバ【アンクル】を振り回してみせた。なぜ、僕のことを。わたくしは、知っているんですよ。あなた様の、お父様を、お母様を、弟様を。
あなた様は気付いていたんでしょう。ご両親の歪んだ愛情に。出来の悪い兄と、出来の良い弟。虐待される兄と、優遇される弟。だから弟様は。ただ、気付いていないことが、一つだけ残っているんです。続く一人言を遮る一言。君は誰だ。わたくしは、水先案内人です。誰の差し金だ。それはまだ、言わない約束です。
一人の魔物は、世界の為に竜になった。一人の妖精は、世界の為に神になった。そして一人の男は、竜であり、神だった。竜が神になったのか、神が竜になったのか、その答えを知るものはいない。ただ、そこに竜であり、神であるヒスイが存在していたことに変わりはなかった。あいつら、本当に昔から、変わんねぇな。
俺より先に、老けてんなよ。竜神ヒスイが声をかけた初老の竜。その言葉から伝わる二人の関係。久しぶりに帰ってきたのにさ。多節棍型ドライバ【ズアオ:リミン】を手にした姿は、言葉とは逆に楽しそうだった。早く囚われの姫を、助けてやれって。視線の先は、竜王の玉座。当たり前だ。そして、竜王は立ち上がる。
誰が世界を創ったのか。それは、神なのだろうか。では、誰が神を創ったのか。それは、世界なのだろうか。始まりと終わりが、表裏一体であるように、神と世界もまた、表裏一体なのではないだろうか。では、世界を愛する男は、神を愛することが出来るのだろうか。難しい話は、止めようぜ。ベニはそう言った。
弱いから、負けたのか。いや、強いから、勝ったのか。炎獣神ベニはいつかの戦いを思い出していた。予期せぬ炎神の強襲と、その身を犠牲にしてまで我が子を守った炎才の一戦。結果、どうなったんだ。誰が、一番悪かったのか。考えごとは、そのくらいにしておきましょう。優しく声をかけたのは、神主狐だった。
世界は破壊と再生の歴史を繰り返し続けていた。そう、世界は何度も滅びていたのである。それを、震災と呼ぶ人もいれば、神災と呼ぶ人もいた。では、種族間の争いはどうだったのだろうか。自分達で、世界を破壊したのだろうか。そういう時はな、決まってうさんくさい神様が手引きしてんだよ。ヘキはそう言った。
2人の蒼き少年が、すれ違ってしまったのは、単なる偶然だったのだろうか。それとも、神の悪戯だったのだろうか。そんなの、俺の知ったことじゃない。水獣神ヘキは飽き飽きとしていた。だけどな、俺はひとりだけ知ってるよ。そうやって楽しむ、悪趣味な神をな。思い出される顔。あのカマ野郎、いつか、ぶっ殺す。
歪な平和の手引きを、誰が責められるのだろうか。判断を下すことの出来ない弱き存在が、判断を下すことの出来た強き存在へ、抱いてしまった嫉妬心なのだろうか。結果、救われたのは、弱き存在達だったにも関わらず。いつの時代も、民は横柄だった。違うよ、横柄だから、民なんじゃないかな。サナエはそう言った。
あの時、どうして風神さんは、勝手な行動をとったのかな。民は王に縋り、王は神に縋る。だとしたら、神は世界に縋るのか。世界が、神に縋るのか。そう考えたら、納得がいくんだよね。例外行動は自己主張、それを縛る存在はいない。神様なんだから、それが正しい行動だったんだ。ひとつの行動は、肯定された。
この世界は生きとし生ける者達に優しき世界なのか、それとも厳しき世界なのか。誰もが追い求める答え。この世界は人によって優しくもあり、また厳しくもある。誰もが辿りつく答え。では、どう生きるのが正しいのか。ありのままに、優しさも厳しさも受け入れましょう、それが神の教えなのです。ソガはそう言った。
天界での光神の行いは、優しさだったのだろうか。それとも、厳しさだったのだろうか。尊い事実に、変わりはありません。光獣神ソガは複雑な表情で言う。未来を重んじて輝く若い光を考えての行動。世界はそうやって成り立っているんです。それは、とても優しく、とても厳しい現実。だから、未来は動き出しました。
世界の理と現神の関係は複雑怪奇に絡み合っている。世界を創造するのが神であったとしても、その世界を彩り、形成するのは神ではなく、人なのだから。故に、神は概念でしかないという証明だった。神は、神という役割を、概念は、概念という役割を、ただ行使すればいいだけの話だから。キキョウはそう言った。
かつて、椅子に固執し、そして一つの歴史を終わらせた闇神。あの行いは、良くないと思うよ。闇獣神キキョウは不機嫌そうに言い放つ。概念が意志を持ったとき、それは神と呼べるのか。あの行動には明確な意思があり、神の行いから逸脱しているのではないか。僕は、あの神嫌いだね。ただ、これも一種の意志だった。
私にとっての世界。僕にとっての世界。誰かにとっての世界。世界は、幾つも生まれ続ける。世界を創ったのが、神だとしたら。それぞれの世界を創ることが出来た時、誰しもが神になれるのだろうか。世界とはなにか、その定義次第では、誰しもが神になれる。だったら、勝手に神様名乗ってろよ。スズはそう言った。
その行いは、善意か悪意か。それにより、全ての意味が異なる。神の行動もまた、例外ではない。都合が悪けりゃ、なんでも悪意なのかよ。無獣神スズは楽しそうに呟く。前向きに捉えりゃ、あれは試練だろ。そんな彼が思い出していたのは、無神によるかつての行い。そのうち、俺が相手してやっから、待ってろよ。
立入禁止区域を抜けた先に、遊水洞は存在していた。涼しげな風、穏やかな日差し、生い茂る緑、そこはまるで、秘密基地のようだった。ここを、2人だけの内緒の場所にしよう。そんな約束をしたのは、金髪碧眼の幼き兄弟。水は2人を祝福していた。