私はいつまでも、傍にいますよ。そう囁きながら注いだ紅茶。僕が君を、助けてあげよう。そう囁きながら撒いた飴。オレに指図するな、キミは消えろ。そう囁きながら弾いた障害。本当に幸せです、教祖様が一人で先に旅立たれてしまうなんて。ティルソンは続ける。ここからは、完全世界の翻訳をしてもらいましょう。
完全世界の為に、教団員の心を一つにします。執事竜ティルソンは続ける。人は、悲劇に心を動かされる生き物です。上がった口角、下りた睫。ですから、彼らには、華麗に散ってもらいましょう。見つめたのは四大魔王の椅子。そして、悲しみの夜が訪れた後には、黄金の夜明けが訪れるのです。全ては、あの方の為に。
鞘を盗んだのは、あなただったのね。モルガンの元を訪ねた、隊服を脱ぎ捨てた一人の女。あんなの、要らないわ。投げ捨てた言葉。それは異母弟を生かす為かしら、それとも、殺す為かしら。問い詰めても、答えは出ない。なら、実妹を生かす為かしら、それとも、殺す為かしら。上がる口角、見えたのは八重歯だった。
あーあ、つまんないの。闇愛精モルガンは口を尖らせていた。アタシはね、パパが大嫌いなの。だから、パパから全てを奪うの。だったら、私と目的は一緒かしら。二人の女は手を組んだ。アンタも、堕ちた側なのね。そして続く言葉。人を堕とすのは、いつだって愛よ。いつの時代も、世界は、歪んだ愛で形成されるの。
とある遊園地の一角に、『希望ヶ峰学園』と掲げられた、とびっきりの絶望を体感出来るアトラクションが期間限定で設置されていた。開園を待つお客様の楽しげな表情に、ボームは堪えきれずに笑い出す。うぷぷぷぷぷぷ。何故なら、彼等はまだ知らない。最後に待つ、スペシャルなお仕置きを。さぁ、もうすぐ開園だ。
子守から解放された執事竜は、一人きりで朝の紅茶を堪能していた。ようやく、黄金の夜明けが訪れる。全ては、教祖の為であり、教祖の為ではなかった。僕が信じていたのは、最初から教祖様だけさ。教祖は偶像であり、象徴でしかなかったのだった。