失くした記憶の在り処、その存在そのものが堕ちた者への烙印だった。そう、少女は堕ちたのだ。ただ一つだけ、少女には例外が存在していた。誰が堕ちるのは魔界へだけだと決めたのだろう。魔界で生まれ、常界へと堕ちるということを考えもせずに。
今日もあの子が来てくれた。昨日もあの子は来てくれた。明日もあの子は来てくれるかな。目の前で散った魔女王。思い出される記憶。少女は魔界で生まれ、常界に堕とされた。そして決める覚悟の刻。だって私は、あの子のことが、大好きなんだから。
怒りに身を任せた少女の振るう鎌は空を切り裂く。まるで刃の立たない闇神。そんな時、闇に溶けた少女の影。あなたの闇は、私が包むから。闇精王が選んだ道は天界ではなく、堕ちた少女と共に生きる道。そして少女の影となり、寄り添うのだった。
戦いは終わり、赤い月は沈んだ。迎えた朝は魔界の新たな歴史の始まり。訪れた観測者に、少女は視線を投げ返す。いつかあなたを、世界から弾くことになるわ。それでも少女は視線を投げ返す。少女が立ち会うことなく、黄昏の審判は終わりを告げた。
平穏に包まれた常界で開かれた新生世界評議会の会議の場に送り込まれた魔界代表はそっと一通の手紙を読み上げた。それは天界に対する宣戦布告。黄昏の審判を引き起こした神々と通じた罪人達への報復。全ては、大好きだった、あの子の世界の為に。