今からじゃもう、間に合わないんじゃない。そう口にしたのは目を開けることなく状況を察したヤナギだった。だが、そんな彼が手にした筆型ドライバ【シモツキ】を睨みつける絶無の少年はまだ諦めてはいない。間に合わなかったとしても、他の方法を探せばいいだけの話さ。ただ、少年の瞳に焦りが見え隠れしていた。
彼女は聖なる扉を目指してないよ。それは少年の友達であり、幼き日を失くした一人の少女の話。後ね、彼女は君を、この常界を裏切ろうとしているのさ。赤い月の夜、確かに少女は魔女王の座に。きっと、アイツなりに考えがあってのことさ。繰り返し続く悲劇、発した言葉とは裏腹、信じる気持ちは揺らぎ始めていた。
道化の魔法使いにより、燃え盛る炎の竜は刃へと姿を変え、そして、その刃と呼応するように現われた赤い光が止んだ時、神刃型ドライバ【レーヴァティン】を手にスルトは現われた。幾億万と繰り返されてきた破壊と再生の歴史の果て、聖暦という時代に、再び神は現われた。この統合世界に訪れるのは、破壊か再生か。
有難うございました。生んでくれてありがとデス。二人を繋いだ優しき獣と自律の心。最期まで良いものを教えてもらったな。二人の為、炎へと還る炎の起源。オマエは、生きろ。そして一人の為に、一人の男は炎神スルトへと立ち向かう。親の責務を、果たす為に。
天高く聳える塔の最上階、シグルズの手に握られたのは水の刃竜が姿を変えた神刃型ドライバ【フロッティ】だった。各々に散らばり統合世界へと降り立った六人の神達。彼が向かったのは閉じられた聖なる入口。自分を捨ててまで守りたかった弟の手により最愛の女性を失った水を留めし少年へ、更なる悲劇が訪れる。
やめてくれ。大切にしていた貝は砕かれた。やめてくれよ。主人を失くした妖精は羽をもがれた。やめろってば。散りゆく明るき花。やめろって言ってるだろ。折られた六本の刃。もう、やめてくれ、お願いだ。水を留めた少年は、全てを失くした。アタシに本気を見せてみなさいよ。水神シグルズは悪戯に笑ってみせた。
本来の姿である神刃型ドライバ【ミスティルテイン】へと形を変えた風の竜が求めた宿り木、ヘズはその刃を手にしていた。気だるそうに寝ぼけ眼をこすりながら見渡す統合世界、久しぶりに得た体を慣らす為、少女は一人、閉じられた聖なる入口へと向かうのだった。全ては道化の魔法使いが意図したことなのだろうか。
アイツを倒すのは、私の役目なんだから。獲物を目の前に炎と闇をぶつけ合う二人。そんな時、降り立った風神ヘズは刃で、その二人をあっさりと貫いた。なんでなの、あなたは、だって。自らが信じた主が呼び出した神を前に崩れ落ちる道化嬢。思わず駆け寄る風を纏いし少女はただ、ごめんねの言葉を繰り返していた。
帰還率100%の神刃型ドライバ【グングニル】はオーディンの手に握られた。天高く聳える塔から放つ神々しい輝きは、そこにこの世界のものではない何かが、そう、神がいるのだと誇示するのに相応しかった。そんな彼女は遥か彼方を見つめ、刃を放つ。何を目掛けて放ったのか、それは彼女のみぞ知る話だった。
天界に着いた乙女達の前に現われた妖精王。天界の裏側を教えてあげるわ。静かに話し始めた矢先、一筋の光が美宮殿へ突き刺さる。光を宿した少女の正面、赤く染まった妖精王。意外な邪魔者だなぁ。光から少し遅れて現われた光神オーディン。私は所詮綴られた存在、でもあなたは。妖精王は少女を抱き、そして光へ。
闇の竜は刃へと姿を変え、そして生まれた神刃型ドライバ【ダインスレイヴ】を手にしたヘグニは我侭に振舞う。ちょっと、私の椅子はどこよ。天高く聳えた塔の最上階での出来事。この塔では王様にのみ椅子が与えられるのさ。そうはぐらかした仮面の男の奥、唯一の椅子には、虚ろな目の堕ちた王が腰をかけていた。
だいすき。やっぱりだいすき。ずっとだいすき。いつまでもだいすき。それは一瞬の出来事だった。椅子を求めた闇神ヘグニが赴いた魔界の不夜城の女王の間、大好きな幼馴染を守る為、力を出し切った幼き魔女王。嫌よ、悪い夢よ、これは夢なのよ。全てを思い出した闇を包みし少女は、紫色のストールごと抱きしめた。
常界、天界、魔界、三つの世界へと向けられた神刃型ドライバ【ティルファング】を手にしたヘルヴォルは、何故自分が呼び出されたのかがわからなかった。また、わかろうともしなかった。そこに意味を求めず、ただ、再び刃を振るえることにのみ、意味を見出していた。その振るわれる刃は、何を無に帰すのだろうか。
ちょっとだけ間に合わなかったね。最後の庭園に辿り着こうとしていた無の少年の前に現われた無神ヘルヴォル。ふわふわ、消えた霊乙女。緊急事態発生、消えた自律兵器。こんなの聞いてないにゃん、逃げ出す拘束獣。何でだ、何でなんだよ、失意の少年。無を恐れるな、少年よ。無精王は少年を残し、無へと帰した。
誰かが夜を怖いと言った。誰かは朝が怖いと言った。そんな夜と朝の境界線にのみ入ることの出来る庭園。その闇は夜の終わりの闇なのか、それとも朝の始まりの闇なのか、捉え方により世界は角度を変える。そんな曖昧な庭園が存在していたのだった。
なぜ私をそんな目で見るのだ。たまには良いではないか、こういった嗜みも。案外楽しいものだぞ。ほら、どうだ、君の分まで頼んでやろうか。通信販売というのも、なかなか楽しいものでな。この世界も随分と便利になったものだと関心しているよ。