その日、西魔王は二度死んだ。旧西魔王は新西魔王を討ち、そして旧西魔王は、西魔王だった自分を殺した。だから僕は、何者でもない。そして、アリトンは自らの手で、自らの道を選んだ。僕は、死ねないんだ、死んだらいけないんだ。そっと、水面が微笑み返す。僕は、生きて、そして、罪を重ねることで、償うから。
やっぱり、完全世界なんてなかったのよ。そして、オリエンスは左目を抉った。これで、お別れね。それは教団との決別を意味していた。私は不完全な存在になったの。だが、東従者となった彼女の残された右目には光が宿っていた。私の居場所なら、初めからあったのね。残された右目で見つめた一人の少女。けひひ。
やっぱり、そうだったのね。囚われの身であるカナンは雷帝竜へと問いかける。そうよ、アタシはね、アンタも、竜王も、道化竜も、竜界のみんなが大嫌いなの。もちろん、創られた教祖様もね。そう、雷帝竜が信じていたのは、初めから真教祖だった。
不思議なものね。アリスは紅茶を嗜んでいた。聖戦に負けたはずなのに、晴れ渡っていたアリスの心。それよりも、もっと不思議なこともあるの。ふたつの聖戦を経て、生まれたふたつの世界の絆。いまだけは、この不思議に酔いしれてもいいかしら。
私はただ愛を貫いただけよ。ムラサメの確固たる自信。そして、うちの女王も愛を貫いただけなの。女同士だからこそ、通じ合う心。だけど、いまはその愛を少しだけわけてあげるわ。その手は確かに、天界へと差し出されていたのだった。