少年は炎に出会い、旅を始めた。繰り返される数多の出会いと別れ、そして、聖なる扉を目指していたはずの旅は、いつしか大きな背中を目指す旅へと変わっていた。いつか追いつきたい、そんな願いを込めた茜色のピアスは、今も左右で揺れていた。
目の前で消える大き過ぎた背中。間に合わなかった。駆けつけたのは筆を手にした花獣。最後の約束、受け取ったよ。少年は立ち上がり、そして拳に炎を灯す。だから俺は、生きるんだ。その炎は反撃の狼煙となる。だって俺は、炎才の息子なんだから。
全ては、自分を変えてくれた少年の為。炎の大精霊は炎に還りながら、それでも少年の側を離れなかった。そなたと彼が親子であれば、そなたと妾は何であろう。重ね合わせる拳、預け合わせる背中。戦友って呼ぶんだよ。二人はニヤリと揃えて笑った。
観測者に導かれるように向かった塔、そこではまさに最後の審判が行われようとしていた。そして顔を合わせる四人の友達。その場にいない二人のことを思いながら、そんな二人の為にも、最後の力を振り絞るのだった。全ては、聖なる入口を壊す為に。
少年が見つめていたのは重なったネックレス。失った仲間達。だけど、少年に休む暇などなかった。聖なる出口を求め、始まろうとする聖戦。今度こそ、全てを終わらせるんだ。再び炎を灯した少年の背中は、やがて追い越す背中を予感させたのだった。
もう一度戦うには、こうする以外に方法はなかったんです。自らの意思で体を捨てた道化竜は、在りし日の姿で古竜王ノアに寄り添っていた。温かいな、まるであの頃が帰ってきたようだ。それは二人だけがわかる、二人だけの思い出。頭に乗せたのは、少し変わった王の証。さぁ、いこう、お前こそが、私のクラウンだ。
あの日、アイツは俺を拾ってくれた。蘇る思い出、いつかの路地裏。いつの間にか、忘れちまってたみたいだ。そしてアマイモンは首輪に手を伸ばした。今も昔も、これからも、俺は飼い犬でいい。剥奪された北魔王の地位、だが、嘆きはしなかった。そう、飼い主だけは、俺が決めるんだ。選んだのは北従者の道だった。
彼の為に僕が存在するように、僕の為に彼が存在するんだ。だが、神才はそれを否定した。だってさ、彼は王である前に。続く言葉を遮る悪戯神。それは、僕達が決めることじゃない、彼が決めることだよ。だから彼に、愛した世界を見せてあげようよ。
地へと堕ちた堕魔王。訪れたのは静寂。魔界の王でありながら、最後は天界を守る為に戦ったオベロン。では、いったいどちらの世界の勝利なのだろう。その静寂を終わらせたのはヴィヴィアンの一声。私達の王が帰ってきた。だから、私達の勝利です。
湧き上がる歓声。それは在りし日の恐怖の糾弾ではなかった。幕を閉じた最終決戦。勝者は堕精王オベロン。そう、天界を守る為に戦った、かつての妖精王だった。地へと降りたオベロンへと駆け寄るヴィヴィアン。そして、大粒の涙を溢したのだった。