両親の歪んだ愛情を受け入れられるほど、あの日の二人は大人じゃなかった。愛を愛だと理解するのには、時間が必要だった。だから僕は、僕を肯定し続けるしかないんだ。研ぎ澄まされた水の刃が貫いた体。どうして、よけてくれないんだよ、兄さん。
堕水才が操る水がアスルの頬をかすめる。こんなの、痛くも痒くもねぇっての。振り回し続ける槌。アイツらは、きっと誰も負けない。だからオレも、負けるわけにはいかねぇから。互いに一歩も引けない攻防。だが、その戦局を新たな水が洗い流した。
互いに炎を燃やし、そして互いに血を流すふたり。きっとあの子たちは戦場で出会ってなかったら、素敵な友達になれたんじゃないかな。だが、ふたりが出会ったのは戦場だった。だからきっと、あの子たちはあの子たちの覚悟を決めてるんだよ。
ヒメヅルとサニィ、ふたりの頭の中には、すでに戦争の二文字は消えていた。きっとね、あのふたりは全力で喧嘩してるだけだから。構えた刀と杖。そして、最後の一歩を踏み出すと共に、踏み出された最後の言葉。生まれ変わったら、友達になろう。
愛を求めるムラサメと愛を憎むレイニィ。あなたの友達が可哀そうね。どうしてですか。きっと、その友人達は、最後まで愛をつらぬいたのよ。違う、人間に惑わされただけなの。動揺する心。あなたにいいことを教えてあげる。今から私を愛しなさい。
弾かれた杖。振り上げられた刃。私を愛したのなら、私の為に死になさい。そうすれば、あなたもわかるでしょう。愛する人の為に死ねるという喜びが。そこにあったのは歪んだ愛。そして、振り下ろされた刃はレイニィの心を斬り裂いたのだった。
もう止めとけよ、ベイベ。お前の方こそ。無数の傷口に染み入る風。漢には引けない戦いってヤツがあるんだぜ、ベイベ。奇遇だな、俺も引けない戦いってヤツなのさ。風が泣いているか、笑っているか、それはふたりが命を張るに十分な理由だった。
そして、互いに纏いし風の果て、倒れたふたりが最後に見上げたのは空。そこには相変わらずの風が吹いていた。そんな風がふたりの頬を撫でたとき、ふたりはひとつの答えに辿りつきながら瞳を閉じる。あぁ、風は泣きながら笑っていたのだ、と。