見つめ合う妖精王と幻奏者、一列に並んだ六色の女王。ただ息を飲みながらその光景を見守ることしか出来ない光を宿した乙女達の前に突如して現われた大きな光。それは鎧型ドライバ【サロモン】を纏ったハールレムだった。さぁ、早く乗り込んで。光の夜汽車は空を翔ける。お待ちなさい。美しき声は遠くに聞こえた。
あなた、ノアの一族ね。核心をついた光精王。君を聖なる扉へ届けるのが、私の使命だから。ハールレムは光の少女を見つめていた。だとしたら、その前に寄って欲しい場所がある。光精王が語るのは歪な平和の歴史とその裏の都合の良い犠牲。【サロモン:トゥエイ】を身に纏った青年は、行き先を天界へと変えた。
大きな光の中から現われたのは、聖なる扉行きの夜汽車を止めた夢幻の駅。行き先は出口なのか、それとも入口なのか、それは辿り着くまで知らされることはなかった。何故ならそこは、人によっては出口でもあり、また入口でもあるからであった。
かつて、世界評議会には聖暦の天才と呼ばれる六人の天才が所属していた。そして、新生された世界評議会には、聖暦の画伯と呼ばれる六人の天才が所属していた。レオナルドは筆型ドライバ【ヴェロッキオ】を無我夢中に振るう。それは世界の為か、それとも自分の為か。描かれた絵、その力に全てが込められていた。
レオナルドの元に届いたのは、世界評議会への推薦状と、神への推薦状だった。妖精が神になる、それは妖精ならば誰しもが知る禁忌であった。かつて、とある妖精が神になったことで、天界は滅びかけた。その過去を知りながらも、彼は神となり、そして炎画伯を名乗り、描き続ける。見たことのない絵を、神の為に。
魔界の片隅、マルクは自由に絵を描いていた。そんな彼の才能に目をつけ、筆型ドライバ【ベラ】を贈ったのは新生世界評議会の最高幹部の一人。君に未来を描いてもらいたいんだ。そうして、聖暦の画伯として、世界評議会に招かれ、ひたすら絵を描く。そう、約束された未来が終わった先の、新たな未来を描いていた。
未来を生み出す為に、前を向く必要はないんだよ。優しい声が水画伯マルクを支えていた。未来は、過去の積み重ねでしかないんだから。そう、過去が、未来を作るんだ。そして彼は、ひたすら過去を探し続け、やっと辿り着いたのは、かつての聖戦と呼ばれた一つの争いだった。そっか、僕はこの未来を描けば良いんだ。
誰かに銃で打ち抜かれた。フィンセントは、それが誰かわかっていた。今度は、私が都合の良い犠牲なんだ。全ては精霊議会による決定事項。そして天界を追放され、常界で療養をしていた彼女の元に、一通の推薦状が届けられた。私は、絶対に許すことは出来ない。その想いは、筆型ドライバ【アルル】により描かれる。
かつての天界と神の取引に関係していた一人の男。それは綴られた妖精でありながら、神の力を手に入れた堕精王。そして、王でありながらも、幽閉されていた。彼のせいで、私は。風画伯フィンセントは憎むべき対象を見つけた。だったら、彼のいない未来を、私が描いてみせます。それが新生世界評議会の狙いだった。
クロノスが単独で攻め入った神界。だが、すでにクロノスは刻命神により別の空間に隔離されていた。そして、それこそがクロノスの狙いでもあった。私がここに隔離された以上、あなたたちもここから出ることは出来ない。そう、互いに倒れるまでは。
私たち3人を相手に、いったいいつまで持つのかしら。ウルドが払った剣先がクロノスの頬を掠める。それは、あなたたちが3人がかりでないと、私のことを止められないのと同義ね。クロノスがみせた余裕。私は私の、止めていた刻を動かすまでよ。
隔離された刻の空間。その空間には現在、過去、未来、そのすべてが混在していた。それは即ち、世界の理から外れた空間。誰にも気づかれることのない戦い。いいさ、私は誰に観測されなくとも。そう、クロノスは自らの役割を嘆きはしなかった。
イマの世界を選択するなど、それは歩みを止めるのと同義だ。ベルダンディはその意味を誰よりも理解していた。それも、人間共に託すなど笑止千万。あぁ、私たちからしたら、彼らのイマなど、一瞬の出来事だろう。そして、クロノスは笑ってみせた。
だがな、その一瞬を彼らは生きている。私たちに頼らずとも、その一瞬の中で、よりよい未来へと歩き続けている。そんな彼らの想いを、私たちの意思で制していいのだろうか。いや、そんな権利など私たちにはないんだ。そうさ、神話の世界へ帰ろう。
私たちがいたからこそ、人間は生まれた。だから、彼らの未来を私たちが決めるのは当然のことだ。そんなウルドの言葉を否定するクロノス。それはすでに過去の話さ。そんな昔話に固執するなんて、お前らしいな。だから私たちは、変われないんだ。