不協和音は常界だけではなく、天界魔界、そして竜界にも鳴り響いていた。妖精さん、ごめんなさい。フィアは轟音を響かせる。空を割り、大地へと落ちる無数の稲妻。増幅型ドライバを与えられた少年少女は、力と引き換えに自由を失った。いや、初めから自由の意味など知らなかったのだった。あぁ、ごめんなさい。
突き刺さる落雷。ごめんなさい。悲鳴と共に勢いを増す雷鳴。ごめんなさい。ただフィアは謝ることしか出来なかった。だが、そんな少女の愚考をある女が制止した。ごめんなさいとありがとうは、同じ数だけ言えと教わらなかったかしら。その女は、ありがとうだけを残して消えた男の、ごめんなさいを待ち続けていた。
いつもより深い闇に包まれた魔界。フュンフはそれが何を意味しているかはわからなかった。ただ、言われたようにしたに過ぎなかった。いいよ、朝なんて来なくて。少女は未来を見ようとしなかった。いや、未来という言葉の意味を知る機会すらなかった。増幅型ドライバ【コード:D】は、そんな彼女の御守りだった。
あなたにも、生の希望が必要みたいね。天界を後にした女は魔界へ辿り着いていた。あなた達は何も悪くはないわ。フュンフへと伸びていた長い影。ただ、私の邪魔だけはさせないわ。そして魔界は、いつもの闇に覆われていた。彼女達の裏には、誰が。女は休む暇もなく、たった一人で竜界へと向かうのだった。
ゼクスが訪れたのは竜界だった。増幅型ドライバ【コード:N】を手に、辺りを無へと誘う。ほぼ同時刻に六ヶ所で起きた災害、それは表向きは統合世界に竜界が加わることになった黄昏の審判の二次災害と言われた。だが、実際にはその裏に創られし六人の子供と、その糸を引く神の手を持つ天才少女がいたのだった。
天界と魔界、そして竜界に起きた災害を収めたのはあなただったのね。意識を失ったゼクスの隣にいた女へと、隊服を脱ぎ捨てたかつての仲間へと向けられた銃槍。あなたに、あの人の代理は務まらない。投げ返す殺意。戻って来なさいとは言わないわ。眼鏡越しに返す真意。私達は今も信じている。必ず、帰ってくると。
聖王代理を務めるミレンは、一部の隊員を鞘の奪還へ、一部の隊員を帰らぬ王の奪還へと向かわせた。仕事後の執務室、指でなぞったのは溶け出した氷。全員で、迎えたいのに。こぼした溜息。もし、あの子の言葉が本当ならば。彼女が気にしていたのは、隊服を脱ぎ捨てた一人の女の言葉だった。世界は、彼を許さない。
リオは淡々と話し始めた。温かい世界、それは彼にだけ冷たい世界。優しい世界、それは彼にだけ厳しい世界。肯定される世界、それは彼だけが否定される世界。信じられる世界、それは彼だけが裏切られる世界。だから私は、彼を殺す。生きていてはいけない。私は、彼の、あなた達の敵。それが、彼の為の世界だから。