外されてしまったリミッターにより暴走を余儀なくされた機体、第五世代自立兵器型ドライバは失敗だった。だが、それは始めから計算されていた暴走。計算の上で計画されていた小型化、【ナノ・リヴァイアサン】を引き連れた幼き竜インダストラは、満面の笑みを浮かべ、統合世界全土へと、終焉の言葉を口にした。
聖王の邪魔はさせまいと、立ち塞がったのは銃槍と銃鎚を構えた二人の聖銃士。人間がおもちゃを手にしたくらいで、古の竜に勝てるわけなんてないのにね。水明竜インダストラは幼き笑顔を絶やさぬまま、指先一つで【テラ・リヴァイアサン】を解放、聖銃士二人の放った水を可憐に泳ぎ、白い隊服を赤へと染めた。
聖なる扉が開かれるより遥か以前、古より栄えていた水の文明。そんな水の文明を司る古宮殿への扉が開かれた時、水の竜が産声をあげた。天界、常界、魔界、そのどこにも属すことのない統合世界にとっての例外は何故、この時に開かれたのだろうか。
神と竜が繰り返し争い続けていたのは遥か古。そして、それは遥か上位なる世界での話。そこで生じてしまった誤算、上位なる存在へと捧げるはずの【ナノ・ニーズヘッグ】は、異なった上位なる存在、古の竜エジプトラの手へと届けられてしまった。あぁ、どうかお許しを。一人の天才は痛むことのない胸を痛めていた。
結ばれた聖王の勅令と真意。あの時の嫌な予感の正体に気づいた頃にはもう、銃剣に込める弾は尽きていた。だけど、果たせていた勅令。そして、聖なる闇は自らを否定してまで、最期の光を発した。全ては、もうひとつの鍵となる小さな光の為に。二人は、闇明竜エジプトラと【テラ・ニーズヘッグ】の闇へと消えた。
深い夜に包まれた宮殿、それは繰り返される終わりの毎日だった。願うべき星も、想いを馳せる月も、たった一つの光も届かない宮殿で、永遠に繰り返される終わりの中で、古の竜は何を思っていたのだろうか。訪れない明日を、求めていたのだろうか。
飼い慣らされた古の竜は自らに牙を向けた【ナノ・ウロボロス】を飼い慣らし、そして、統合世界という檻の中で飼い慣らされた者達へと終焉を突きつける。そこに自由などは存在していなかった。竜の力を持った混種族<ネクスト>の訪れ、無才にだけ聞こえていた声は、統合世界全土へ聞こえる声へとなり響き渡る。
泣き崩れた少女は、壊れた宝物を抱きしめていた。最後の忠誠を誓った男は、聖王の宝物を抱きしめていた。無情にも遂行される終焉の序章、放たれた【テラ・ウロボロス】はその場の全てを無に帰した。そして、残されたのは、無明竜メソポティアただ一人と、消えかけた葉巻と、笑顔のままのピンクのポーチだった。
この古宮殿はいつから存在していたのか、また、何の為に存在していたのか、その事実は知る者など、この宮殿の主である古の竜以外には存在していなかった。いや、存在はしていたのかもしれない。だが、今は確かに存在などはしていなかった。
鋭い牙に吐き出される炎、覆われた鱗に大きな翼こそが現代に生み出された偶像。誰が竜をこの様な形と提唱したのかは定かではないが、紛れもなく、人と同じ姿形をした竜は存在していた。古の竜アメリカーナは【ナノ・サラマンダー】と共に、統合世界へと降り立った。そう、道化の魔法使いの、種明かしをする為に。
目には目を、火には火を。炎明竜アメリカーナが赤子の様に手懐けた【テラ・サラマンダー】は常界の炎を燃やし尽くした。来るべき日の約束を果たすことなく一途な誓いは散り、眠りについた眠れぬ獅子は二度と会えぬ友に手を引かれた。全ては聖暦の王の責務を果たさんとする君主の、聖なる扉への到達と引き換えに。
古の炎を燃やしたのは、炎の文明が閉じ込められた古宮殿。燃え盛る炎の中、自信満々な笑みを浮かべた一人の古の竜がいた。常界の外側の、統合世界の更にその外側、上位なる世界は存在していたのだった。それは例外でもあり、原則でもあった。
解放されたドラゴンの力、だがそれは古の竜の力を継いだ彼女にとって喜ばしいものではなかった。解放による上位なる存在の出現、始まった審判の日へのカウントダウン。竜王に命じられた統合世界行き、アンデルスは手始めに【ナノ・ヨルムンガルド】を自分のものにしてみせた。そしてそのまま、聖なる扉へと。
最期まで聖王の真意に反対しながらも、若き可能性を信じ、犠牲となった初老の男性がいた。最期まで笑顔を浮かべ、聖王の嫌いなところを百個並べた若き女性がいた。そして、そんな横たわった二人のすぐ隣り、【テラ・ヨルムンガルド】と共におどけてみせる風明竜アンデルスがいた。聖なる銃、あと残り、二人。
吹いたのは優しくも、厳しくもない風。そんな乾いた風は、張り詰めた空気をよりいっそう息苦しいものへと変えた。古宮殿に住まう古の竜にとって、空気に重いも軽いも関係なかった。そう、その空気を作り出していたのは古の竜本人だったのだから。
竜王はコウガニアに告げた。解放せし者が手にした六つの刃、それは自らが振るう為ではないと。そして、統合世界へと送り込まれた彼女の元に届いたのは大きなリボンで飾り付けられた特大の箱、中には【ナノ・ファーブニル】と一通の手紙が。「あとわよろしくぴょん(`・ω´・)」と、丸文字で書き記されていた。
また会える日を、楽しみにしてたのに。遠く離れた故郷と友への想いを胸に、二対の棍は砕け散った。口ほどにもないじゃない。眩い閃光は続く。生憎さ、オレを殺せる権利は、ヤツだけのものなんだ。光明竜コウガニアと【テラ・ファーブニル】の発した眩い閃光が止んだ時、一人の男は不敵に微笑み、キスを飛ばした。
遥か古、光はどのような形で存在していたのだろうか。光届かぬこの古宮殿の最果ての祭壇、辿り着くことが出来た時、その答えは見えてくるのだろうか。光が閉じ込められていたとするのなら、いったい誰が、何の為に閉じ込めたというのだろうか。
道化の魔法使いは統合の先の融合を見据え、六つの光を呼び出した。一人の王は融合という約束された未来を受け入れ、開かれた扉のその先の王であろうとした。そして、もう一人の王、古の竜の王ノアは、そんな二人を、世界評議会の企みを、融合を阻止すべく、【ナノ・アーク】と共に上位なる世界から舞い降りた。
【テラ・アーク】は銃輪を、一人の青年の心と体を縛っていた鎖を噛み砕いた。人間にしては、なかなかやるみたいだな。それは最後まで大好きな仲間達を想い、そして、大嫌いな王を信じて戦った一人の青年へと贈られた言葉。竜王ノアと青年、そんな二人をいつの間にか取り囲んでいた特務竜隊は一斉に武器を構えた。
丘の上に建てられた小さな神殿、それは微かな光しか通すことの許されない古神殿ヒルズアーク。ここでは、光は微かで十分だった。一筋の光はやがて、大きな希望へと変わる。そう、古の竜王は自らが方舟に、自らが希望の光になろうとしていた。
古の竜の襲来に備え、世界評議会により秘密裏に組織されていた特務竜隊<SDF>へ出動要請が出された。解き放たれた喜びの業火を吐き出したのは人工竜デラト。これは全て、約束されていた未来。ただ、一人の聖暦を我が手中に収めようとした例外を除いて。そして、その例外による弊害が立ち塞がろうとしていた。
散った一途な誓い、眠りについた眠れぬ獅子、そして、首筋に不自然な赤い痕が残された古の炎竜。戦闘は既に終わっていた。自らの獲物が奪われた怒りは、より強い者と戦える喜びへ、炎喜竜デラトへと姿を変えた。そんな喜びの矛先が向けられたのは、一人の例外により生まれた、一人の鎖に縛られた弊害だった。
混種族<ネクスト>が先天性であるとしたら、アングは後天性である。そう、生まれたその後に混ざり合った異なる血液。どのような過程で混ざり合ったのか、どのような目的で混ざり合ったのか、その全ては明かされず、次種族<セカンド>という名前のみが与えられ、特務竜隊<SDF>として戦場へ駆り出された。
水怒竜アングは激しく怒っていた。唯一与えられていた命令、古の水竜の討伐。だけど、駆り出された先に待っていたのは、隊服を赤く染められた二人と、首筋を赤く染められた一人だった。既に奪われてしまっていた獲物、自らの、次種族<セカンド>としての存在理由は、何者かにより奪われてしまっていた。
人工竜に混種族<ネクスト>に次種族<セカンド>と、特務竜隊<SDF>は様々な竜により編成されていた。神に抗う存在が竜であるのならば、また竜に抗うのも竜であった。上位なる世界より訪れた古の文明竜の討伐命令に対して、竜との混種族<ネクスト>であるにも関わらず、ジョーイは楽しそうに戦場へ赴いた。
何故か、傷だらけながらも安らかな顔のまま横たわった二人の男女がいた。その隣、少しはだけた胸元に赤い痕が残された一人の少女がいた。そう、自らの討伐対象であった古の竜は既に倒れていた。あははは、古の竜なんて、大したことないんだね。混種族<ネクスト>である風楽竜ジョーイは、楽しそうに駆け出した。
数多の実験の失敗の積み重ねの果てに生み出された人工竜であるラブー。本来凶暴であると思われていた竜の中では格別に大人しく、また優しさを兼ね備えた慈愛の竜だった。ただ、その行き過ぎた優しさは、時として狂気へと。自らが生まれたことを嘆き、そして涙を流すその姿は、もはや人間よりも人間らしかった。
そこには二人の女性が横たわっていた。自らの討伐対象だった存在に対しても、目を閉じ、そしてそっと思いやる。そんな愛に溢れた光愛竜ラブーが思うことは一つ、この無益な戦いを、今すぐにでも終わらせたい。大きな翼で天高く舞い、例外により生まれた弊害の行方を捜し始めた。愛ゆえの衝動、優しさは狂気へと。
幾つもの失敗と言う名の犠牲の果てに生まれた竜、次種族<セカンド>のサッド。ようやく生まれることが許された存在は、幾つもの哀しみに包まれていた。以前自分がどのような人間だったのか、いや、どのような竜だったのか、彼女にその記憶は残されておらず、残されていたのはこの世界に対する哀しみだけだった。
辺りを覆いつくした深い闇をかき消したのは、目が眩むほどの激しい光だった。さぁ、あと、一人。そっと呟いたのは、傷だらけの男女を両脇に抱えた傷だらけの青年だった。そして、そんな青年の背後には横たわった一人の少女が。きっとこの場所で、とても哀しいことがあったのだろう。闇哀竜サッドは悲鳴を上げた。
裏切り者には死を。混種族<ネクスト>であり、また特務竜隊<SDF>に属するヘートは、討伐対象である古の無竜ではなく、世界評議会を裏切った一人の例外と、その直属の特務機関を憎んでいた。ようやく、裏切り者達を無に帰すことが出来る。その憎しみだけが、彼の存在理由であり、また、憎しみを愛していた。
まずは邪魔な古の無竜を消そうか。言われた場所へ向かうと、そこには遠くを見つめる一人の青年と、横たわった一人の少女が。視界に捕らえた憎しみの対象、無憎竜と化したヘートは刃を向けた。だけど、そんな彼を見向きもせずに青年は言い放つ。オマエ邪魔だから、そこどけよ。青年は王の帰還だけを見つめていた。