行って来いよ、目を覚まさせたいんだろ。アオトを見送ったアスルは、一人で西館を進み始めた。辿り着いた大広間、待ち構えていた無数の教団員。いいか、オマエら、オレが全員ぶっ潰す。そして、振り上げた槌は、無数の心を打ち砕こうとしていた。
西館を進んだ先にいたのは、アスルの憎むべき堕水才だった。ボクガアイタイノハ、キミジャナイ。電子音声と共に立ち去ろうとする堕水才の前に立ち塞がったアスル。あっちには、行かせねーよ。構える槌。オレはずっと、オマエに会いたかったぜ。
堕水才が操る水がアスルの頬をかすめる。こんなの、痛くも痒くもねぇっての。振り回し続ける槌。アイツらは、きっと誰も負けない。だからオレも、負けるわけにはいかねぇから。互いに一歩も引けない攻防。だが、その戦局を新たな水が洗い流した。
手を貸すよ。新たな水の正体は、堕水才の隣りに現れた水波神だった。相手は、子供一人か。布越しに聞こえた声。うるせぇ、チビ。オマエら、まとめてぶっ潰す。全身全霊を注ぐアスル。二人めがけて振り下ろされた槌は、三人を支える地面を砕いた。
崩壊した西館、重なった瓦礫から這い出したアスルは辺りを見回した。かすかに灯された光。ここは地下か。二人を探し歩き出したアスルが見つけたのは、地下道の先の一つの扉。そして、扉から漏れて聞こえたのは、無数の声が呼ぶ一人の名前だった。