少女は夜が好きだった。訪れる静寂、紫色に染まる街、暗く深い「闇」に包まれていた。だが、刻は過ぎ、少女は優しい闇に包まれていた。死神のごとく、振り払う鎌が切り開く未来。あの日の少女は夜明けを求めた。そう、夜明けの先のイマを求めた。
光り輝く太陽の様な笑顔、少女はいつも笑っていた。楽しい時も嬉しい時も、哀しい時も苦しい時も、笑うことしか出来なかった少女。そんなあの日の少女は、最後まで笑顔だった。振り回される大剣。すべてはそう、イマの世界で笑い合うために。
少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。あの日の少女が巻き起こした小さな風は、やがて大きな風に。構えられた棍はイマの世界への風穴を開けるために。世界さえも変えるほどの、大きな風へと。
ぽつり、ぽつり、降りだす雨。そんな空を虚ろな瞳で眺める少年の空いた心を埋める様に、滴り落ちていた雫。だが、その雫がもたらした恵み。あの日の少年が振るった一対の刀。悲しみの雨空を切り開き、イマの世界へ希望という虹をかけるために。
そして少年は「炎」に出会った。そして少年は「みんな」に出会った。いっぱい転んだ。だけど楽しかった。いっぱい泣いた。だけど楽しかった。思い出すのは、楽しかった出来事ばかり。俺たちはイマを生きるよ。行こう。開かれた扉の、その先へ―。
オズたちが駆けつけたとき、すでに戦いは幕を下ろしていた。立ち尽くすアカネたち6人。目の前に浮かぶディバインゲート。その間に横たわるひとりの男。はは、そんな、嘘だ、嘘でしょ、ボクは認めないよ。ねぇ、どうしてだい、ボクは、ねぇ―。
横たわったひとりの男へと駆け寄ったサンタクローズ。そして、呼び続けたのは、あの日に与えられた伝説の王の名前。あの日の僕らはもういない。俺たちはこれからを生きるんだ。お前はもう、頑張らなくていいんだ。だから一緒に帰ろう。聖夜街へ。
アーサーの最後の決断。創醒の聖者に取り込まれ、内側から封じた力。だからこそ、開かれた道。これがキミの描く物語だったんだね。嬉しいよ、結末が見れて。高揚したロキ。それなら、もう満足でしょう。そして、ロキの首に突き立てられた炎の剣。
それじゃあ、行ってくる。アカネたちは、振り返ることなく目の前のディバインゲートへ。行ってらっしゃい、少年たち。待っているのは、希望かな、絶望かな。その言葉と共に、燃え上がるロキの体。あぁ、認めよう。ボクたちの負けだよ。サヨナラ。
いつかまた会おう。アカネたちが見送ったのは、扉の中へ消える精霊王。それは差し出した希望であり、受け取った絶望。金色の光と共に消滅するディバインゲート。零れ落ちる涙。泣いてもいいじゃないか。俺たちは、不確かなイマを選んだんだから。