そんな、まさか。先に倒れたのはドロシーだった。所詮は人間だってことよ。だが、ハムの息も上がりきっていた。よくも無駄に足掻いたわね、無駄だって言ったのに。ハムが口にしていた「無駄」の意味。例え血を手に入れても、誰が綴れるのかしら。
その役目は、ワタシに任せてもらえますかな。鳴り響く笛の音。現れたウサギのキグルミ。そんなキグルミの背後、ドロシーが会いたくて仕方のなかった者たちが。さぁさぁ、これで形勢逆転、ドラマチックなフィナーレをあなたへお届けしましょう!
トトが生み出した無数の水竜。天へと誘うかのごとく、ハムを取り囲み舞い踊る。パレードはまだ、始まったばかり。アナタの為の特等席で、水と風と光と無のショーをご覧ください。そう、オズのことを想っていたのはドロシーだけではなかった。
水竜をつきぬけ、風の刃が舞い踊る。急な竜巻にご用心。もちろん、その行動に言葉が乗ることはない。だが、その行動に乗せられていた想い。みんな、ありがとう。そんな彼らの姿に、ドロシーはただ胸が締め付けられる。そう、私だけじゃないんだ。
空を翔る獅子。それは空想上の生き物。だが、レオンはただ神々しく羽ばたいてみせた。突き抜けた天井。光届かぬ祠へ差し込む光。そして、降り注いだ光の羽が突き刺した体。それじゃあ、最後に仕上げといこう。不器用な君たちに相応しい仕上げさ!
現代の技術を以てすれば、第一世代であるブリキに言葉を与えることは出来た。けれど、そうしなかったのは、そうせずとも気持ちを伝えることが出来たから。そんなブリキの想い。最後は物理で押しつぶしちゃえ!それが、君たちらしさってやつさ。
立ち上がることの出来ないハム。そんなハムへと歩み寄るのは、片足を引きずったドロシーだった。これが、私たち家族の想いなんだよ。家族を裏切ったハムへと刺さる言葉。さっさと、さっさと私を殺しなさいよ!だが、ドロシーはそれを否定した。
あなたを殺したところで、私たちは嬉しくないよ。それに、あなたにもいつか、帰れるときが来るから。そして、ドロシーたちはハムの横を通り過ぎた。だが、そんな遠ざかるドロシーたちの背中へと向けられた言葉。最古の竜の血だけじゃ、無駄よ。
最古の竜の血、綴る力を持ったボーム。条件は揃ったはずよ。条件はそれだけじゃない。それはかつて竜王が説いた優しさであり、竜王家にのみ伝わる。その答えは、竜道閣の奥に眠ってる。いや、大切にしまっていた、と言った方が適切かもしれない。
そっか、ありがとう。ドロシーは笑顔だった。なんで笑っているのよ。ハムは不思議だった。竜道閣は多くの綴られし者が封じられた場所。最奥へ辿り着くことなんて出来るわけないわ。ううん、出来るよ。だって、そこにはあの子が向かったんだから。