最古の竜の血が眠ると言われる祠、対峙していたのはドロシーとハム。例えその体に竜の血を宿そうと、所詮半分は下等な人間よ。ぶつかり合う闇と炎。だけど、あなたのその体の半分はなにかしら。ドロシーは知っていた。あなたは純血の竜じゃない。
だったらなんだって言うのよ。怒りを露にしたハム。そしてドロシーは続ける。あなたも竜界を裏切り、そして神へと懇願したの。だけど、あなたは信用されなかった。そして与えられたのが、半分の妖精の血。そう、それはあなたを縛る憎き血よね。
そして、あなたに唯一与えられた仕事は、この祠の最深部を守ること。なぜなら、ここには大切な血が眠っているから。ドロシーは活気付いていた。それがわかったところで、アンタはここで私に殺されんのよ。ハムもまた、活気付いていたのだった。
どうせ死ぬのなら、せっかくだし答えを教えてあげるわ。語り出したハム。確かにこの奥に眠っているわよ、最古の竜の血が、私たち竜界の「決定者だった裏切り者」の血が、ヴェルンの血が。肯定されたドロシーの行動。だけど、それだけじゃ無駄よ。
どういう意味よ。引き下がることのないドロシー。わかっているわ、アンタがしたいのは彼を再び呼び覚ますことよね、そう、哀れな綴られし道化竜を。教えてあげる。生まれながらにして彼に与えられた、決して抗うことの出来ない綴られし運命を。
神竜戦争の果て、オズは牽制を目的に綴られた。そして、それを受け入れざるを得なかった竜界。だが、オズはすでに人でいう成人に達していた。そう、彼に幼き日など存在しなかった。父母から命を授からず、ただ紙にインクで綴られた存在だった。
だが、なぜか竜界には彼の幼き日を知るものが存在していた。竜王として竜界を治めていたノアもそのひとりだった。そう、なぜなら彼は「彼女の幼馴染」として綴られたから。すべての記憶は偽り。そしてその偽りの記憶は、彼だけではなかった。
竜界にオズという竜がいた。その世界にはあたかも「オズ」という竜が初めから存在していた、それが彼が綴られた影響範囲。真実を知らず、オズは竜界の端で暮らしていた。そんな彼の許を、ひとりの神様が訪れるまでは。真実を知ってしまうまでは。
ボクは君に選ばせたい。仮面の男が伝えたオズの真実。そう、君の記憶は偽りだらけなんだ。本当の家族なんて存在しないよ。すべて創り物さ。それでも、この竜界はキミの居場所なのかい?もし、キミの居場所がないのなら、ボクが居場所を与えよう。
どうか、行かないでくれ。すべてを知ってなお、ノアはオズを引きとめようとした。だが、頷くことのないオズ。彼女に会ったら伝えてください。僕は竜界を裏切ったのだと。いつかの花飾りも、捨ててくれと。それがきっと、彼女のためなんです。