私はここを知っている。魔界の深い深い森の奥、ふたりだけの特別な場所。だけど、どうして私はここに。その答えはすぐにわかった。ユカリ、一緒に遊ぼう。ユカリの許へ現れたのは、幼き日のヴァルプルギスだった。私たちだけの、特別な場所よ。
お揃いの紫色のストールが包み込んだのはふたりだけの特別な時間。触れ合う手のひら。だが、決して感じることの出来ないのは温もり。私は、この世界にしか存在出来ないみたいなんだ。そう、優しすぎた時間は、残酷すぎる時間でもあったのだった。
だから私は、最後にユカリにお願いをしたいの。ヴァルプルギスの言葉に黙って頷くユカリ。ねぇ、いまのユカリには、ユカリのことを大切に想ってくれる人がたくさん出来たよ。だから、そんな人たちのために生きて欲しい。私のためじゃなくて、ね。
私はね、もう過去の存在なんだよ。思い出なんだ。だから、もう私のために涙や血を流さないで。それでも行くと言うのなら、ユカリはユカリの人生を生きて欲しい。ユカリを大切に想うみんなを大切にしてあげて。それが、私からの最後のお願いだよ。
思い出は永遠であり、色あせることのない金色。そう、私はユカリの一番の宝物。それだけで、私は幸せだから。ヴァルプルギスは笑顔だった。ありがとう、私の宝物。さようなら、私の宝物。そしてまた、ユカリも笑顔で幼き自分へと別れを告げた。