始まった最終決戦。禁忌の力を得たオベロンとヴラドの戦いは無の空間に包まれていた。いったい、中で何が起きているのか。それは外から見ることは出来なかった。だが、確かにそこで、自らの愛する世界のすべてをかけた戦いが行われていた。
ヒスイは気づいていた。ふたりの争いはすでに、お互いの世界の為ではなく、神と竜の争いにすりかえられていたことに。あいつらはコマなんかじゃない。余計なことに気づいちゃったみたいだね。そして、ヒスイの記憶はそこで途絶えたのだった。
ちゃんと戦えんじゃねぇか。喜びに満ちたヴラド。だが、その言葉は悲しみに包まれたオベロンに届くことはない。思う存分ケンカしようぜ。三日三晩終わらない戦い。だが、皮肉にもその戦いを終わらせたのは部外者の一刺しだった。そんな、まさか。
戦いが終わったとき、立っていたのはオベロンだった。次の瞬間、沸き起こるはずの歓声はなく、代わりに響き渡ったのは憎悪に包まれたオベロンへの恐怖の糾弾。こうして、世界の為に戦った王は、信じた家族に裏切られ、世界から弾かれたのだった。
ヒスイが目を覚ましたとき、すでに聖戦は天界の勝利という形で終結していた。だがヒスイだけは知っていた。オベロンもヴラドも、自らの愛する世界の為に戦ったということを。そして、神界からの部外者の介入により、ヴラドが敗れたということを。
ヴラドの遺体には死化粧が施され、棺へと納められ、美宮殿の禁忌の間へと運び込まれた。それは勝利の証であり、停戦の取引材料となった。だが、いったい誰が気づいていただろうか。瞳を閉じたヴラドの意識が、まだその身に宿っていたことを。