これは戦争が始まる前の出来事。代々魔界の王家に仕えるナルキスは、新闇魔女王のことも、そして堕精王のことも受け入れられなかった。あなた様は、なぜ受け入れられるのでしょうか。問いかけられた魔参謀長。視野は広く持ちなさい。そんなあなたに、いい仕事があるの。そして、彼女が向かったのは竜界だった。
なぜ、私がこのような場所に。竜界へと潜り込んでいた水仙卿ナルキス。そして、追いかける情報。かつて、神竜戦争で暴君と忌み嫌われた竜王家の紅蓮を纏いし竜と、王家を追い出された彼に付き従う三匹の古竜。なんで余所者の君が、裏切り者の彼らを追いかけるのかな。彼女の前に立ち塞がったのは流水竜だった。
ぼ、ボクになんでもお申し付けください。頑張り屋なポタは、いつ、どんなときでも、風聖人の側を離れることはなかった。そして、そんな健気な少年を見つめ、風聖人は他の誰にも見せることのない、優しい笑みを浮かべる。緑茶をお願い出来るだろうか、砂糖は多めで頼む。数分後、湯飲みを載せたおぼんは宙を舞う。
かかる緑茶、こぼれる笑い声。だが、その笑い声は皮肉にも似ていた。私はもう、熱を感じることもないのか。そんな風聖人を見つめ、風衛徒ポタは頬を撫でる。ご無理は、なさらないで下さいね。浮かべた無邪気な笑顔。あぁ、だが、今回ばかりは無理をしないわけにはいかないようだ。そして、一通の封書が残された。
月が欠けた夜を泳ぐ魔女がひとり。そんなユカリに寄り添う一匹の猫。私はね、この日を絶対に忘れないわ。それは、誕生日であり、そして特別な夜が訪れる日だったから。どこにいるのかな。早く、捕まえに行きたい。散りばめられた星へと祈りを込めて。だから、見守っていてね。私だけが大人になる、そんな世界を。
時計通りの世界は、最後に命を孤独へと誘う。だとしたら、私の世界はもう、終わったの。彼女はひとりだった。だからこその決断。必ず、私が手にいれる。そんな自信に満ちた言葉からは、言葉通りの決意と、そして、隠しきれない不安が溢れていた。
魔王家への愛が憎しみへと変貌を遂げたとき、彼女の中で疑問が生まれた。いつか私への愛も、憎しみへと変わるのだろうか。そして、彼女はまだ気付かない。自分への劣等感こそが、憎しみであることに。故に彼女は、自分を許すことが出来なかった。