しばらくウチに泊まりな。竜神と共に訪れた竜界、風咎棍士はキャリバンの道場に身を寄せていた。伝えられたのは聖王奪還の失敗、魔界から天界への進軍、各世界の往来手段の封鎖。だけど、私がここにいたら。想いを馳せたのは離れ離れの友達。だが、その想いを遮った一言。いまのキミに、なにが出来るのかな。
世界と世界の争いに、民は口を挟めない。風咎棍士が気づかされた己の無力さ。キミはどちらかを選べるのかな。詰まる言葉。だけど、ウチの王様は不在なんだ。だから探してきてよ、出来損ないのアイツの本当の姿を。告げられた希望。それに、彼女ももう一度会いたいみたいだしさ。そこには、懐かしい笑顔があった。
差し出した一通の封書。坊ちゃんは誰の差し金だ。その問いに答えることもせず、男は姿を消した。文通なんざ、趣味じゃねぇっての。その封書を開くことなく破り捨てた男。そして、そんな姿を見届けたデオンは再び夕闇へと溶ける。やっぱりあなたって人は、そういう人なんですね。その言葉は喜びにも似ていた。
無事に届けてくれたのね。魔参謀長から受け取った報酬。これは仕事だから。そんな言葉を残し、不夜城を後にした密者デオン。その足で向った屋敷。で、奴の様子はどうだった。伝えた一部始終。それでこそ、王の秘密機関だ。サングラス越しの瞳、葉巻を咥えた口元、そんな彼もまた、満足気な笑みを浮かべていた。
竜道閣はかつて、竜界の脅威と恐れられた綴られし存在が封じられし場所だった。だが、綴られし存在に罪があるのだろうか。それは後任の竜王が説いた優しさ。そしてまた、その裏の真意は、竜王家でもごく僅かな者にしか伝えられていなかった。