平穏を保っていた統合世界に不協和音が鳴り響く。突如として炎に包まれる常界の地方都市。俺はただ、言われたことをしているまでだ。アインはまだ少年だった。燃やすだけの、簡単なお仕事さ。勢いを増す炎。どうせ俺達に、居場所はない。そして、彼の力は増幅型ドライバ【コード:F】に閉じ込めたままだった。
炎が辺りを燃やし尽くした時、そこに炎咎甲士が立っていた。派手に騒いだかいがあったぜ。拘束を外し力を解放するアイン。ぶつかり合う炎。オマエを殺して自由を手にする。だが、その戦いを静止したのは髪を短く切り揃えた女だった。貴方を守るよう、仰せ付かりました。甲と銃剣は横に並び、悪しき炎と対峙する。
不協和音の正体は炎だけではなかった。地方都市が炎に包まれると時間を同じくして、また別の場所では街が水に飲み込まれていた。全て、流してしまえばいいんだ。ツヴァイは増幅型ドライバ【コード:A】から、ただ水を溢れさせていた。どうせ、僕らには名前すら与えられない。その溢れ出る水は、涙にも似ていた。
全てを水に流させてはくれないんだね。ツヴァイの前に立ち塞がったのは水咎刀士だった。流そうとする者、留めようとする者、そんな二つの想いの流れはぶつかり合う。そして、そんな流れを壊したのは銃槌だった。まさかだよ、護衛の対象がアンタだったとは。再会を果たす二人。こんな偶然って、二度もあるんだね。
常界で発生した災害は炎と水だけではなかった。巨大な竜巻が街を襲う。ほら、ここは誰かと誰が育った大切な街なんでしょう。災害は咎人を誘い出す手段にしか過ぎなかったのだ。家族とか、友達か、馬鹿じゃないの。ドライは吐き捨てる。所詮人は、どこまでいっても一人なのよ。生まれた時から、彼女は一人だった。
一人じゃないよ、ずっと一緒なんだ。風咎棍士は左手首を握り締めた。創られた少女が起こす風と闇を纏いし風。そんな二つの風はもう一人の少女を運んだ。聖王代理の命により、助太刀参上っと。元気良く飛び出してきた少女は一対の銃棍を手にしていた。詳しい話は後でね。棍と棍は思い出を守る為、立ち向かう。
不協和音は常界だけではなく、天界魔界、そして竜界にも鳴り響いていた。妖精さん、ごめんなさい。フィアは轟音を響かせる。空を割り、大地へと落ちる無数の稲妻。増幅型ドライバを与えられた少年少女は、力と引き換えに自由を失った。いや、初めから自由の意味など知らなかったのだった。あぁ、ごめんなさい。
突き刺さる落雷。ごめんなさい。悲鳴と共に勢いを増す雷鳴。ごめんなさい。ただフィアは謝ることしか出来なかった。だが、そんな少女の愚考をある女が制止した。ごめんなさいとありがとうは、同じ数だけ言えと教わらなかったかしら。その女は、ありがとうだけを残して消えた男の、ごめんなさいを待ち続けていた。
いつもより深い闇に包まれた魔界。フュンフはそれが何を意味しているかはわからなかった。ただ、言われたようにしたに過ぎなかった。いいよ、朝なんて来なくて。少女は未来を見ようとしなかった。いや、未来という言葉の意味を知る機会すらなかった。増幅型ドライバ【コード:D】は、そんな彼女の御守りだった。
あなたにも、生の希望が必要みたいね。天界を後にした女は魔界へ辿り着いていた。あなた達は何も悪くはないわ。フュンフへと伸びていた長い影。ただ、私の邪魔だけはさせないわ。そして魔界は、いつもの闇に覆われていた。彼女達の裏には、誰が。女は休む暇もなく、たった一人で竜界へと向かうのだった。
ゼクスが訪れたのは竜界だった。増幅型ドライバ【コード:N】を手に、辺りを無へと誘う。ほぼ同時刻に六ヶ所で起きた災害、それは表向きは統合世界に竜界が加わることになった黄昏の審判の二次災害と言われた。だが、実際にはその裏に創られし六人の子供と、その糸を引く神の手を持つ天才少女がいたのだった。
天界と魔界、そして竜界に起きた災害を収めたのはあなただったのね。意識を失ったゼクスの隣にいた女へと、隊服を脱ぎ捨てたかつての仲間へと向けられた銃槍。あなたに、あの人の代理は務まらない。投げ返す殺意。戻って来なさいとは言わないわ。眼鏡越しに返す真意。私達は今も信じている。必ず、帰ってくると。
殺したいほど憎かった。いつか殺すと思っていた。だが、それが愛情の裏返しであると気付いていた。ただ、気付かないフリをしていた。アイツさえいなければ、オレは今頃。聖剣を手に、青年は鞘を捜し求めて旅立つ。オレが殺すまで、待ってろよ。
袋に詰め込んだ数え切れない夢と希望。これでもまだ、足りないな。そして、聖剣を手にした男と一つの約束を交わした。一人の男は殺す為に、一人の男は生かす為に、異なる想いを抱きながらも交わした約束。それは、聖王の奪還という約束だった。