風とは何か。時に風は冷たく、微かな命の灯火を吹き消してしまう。時に風は暖かく、木々が産んだ新たな生命を運んでいく。そんな風に興味を持った少女によって創り出されたガル。兵器でありながら、その機体は戦場ではなく、高い雲の上へ姿を消した。風に吹かれた生と死が、ゆらり揺れる世界を見下ろしながら。
この世界を流れる様々な風。竜の吐息、悪魔の羽ばたき。各々の想いを抱えて疾駆する者達。数多の風が空へと舞い、その機体にこびり付いた錆を一つ残らず払い落としていく。風速機ガルの体内に再び風が宿る時、世界の風向きが変わり始めた。いや、風向きが変わり始めたからこそ、再び風が宿ったのかもしれない。
風は運んだ。小さな摩擦から生じた、小さな火花を。風は焚きつけた。その種火が、やがて炎になるまで。風は記憶した。かつて神と竜の間で起きた、大きな争いの傷跡を。そして、変わり始めた風向き。この世界もまた、大きく変わろうとしていた。