何も見えない、深い闇の中を彷徨う二人。忠誠を胸に掲げ走り続けた男は、かつて闇夜の中で見つけた光の行く末を案じていた。自らを否定してまで戦った女は、その戦いの未来を見つけ倦ねていた。そんな憂いな顔をして、何処へ行くんだい。闇の中、何処からか聞こえてきた声の主は、自らをメランコリアと名乗った。
憂鬱神メランコリアは語り始めた。それは光に包まれた世界の光景。男は光を輝かせる為、より深い闇になるべく、溶ける道を選んだ。君はどうするんだい。問われた女は何も答えないまま、男の背中を見送った。やがて踵を返した女の前には、長い影が伸びていた。気が変わったのよ。目を開けたのは、一人だけだった。
それは少女に訪れた休日。骨を抜かれて蒸された、姿形留めることなく銀色に包まれた命と、氷点下の世界で凍らされ、その身を削り落とされた命と、さぁ、選びなさい。少女の意味不明な問いに、にゃあと答える愛らしい猫。そんな猫がプリントされたパーカーに身を包んだユカリの手には、猫缶と鰹節が握られていた。
グリモア教団の本部に設立された超常神通室に所属する六人の団員、彼らは通称サイキックスと呼ばれ、人知を超越した能力を身につけていた。ショクミョウと呼ばれる男が手にした能力は、自らの過去世を、そう、前世を知る能力だった。その力が、何を意味していたのか、それは深く考えずともわかることだった。
炎通者ショクミョウが手にした能力が意味していたこと、それは前世が存在する、ということだった。彼は前世からこの能力を持っていたのか、それとも後天的に手に入れたのか、それを知ることが出来た。そして、前世が存在するということは、輪廻転生の証明でもあり、また、彼自身が、その証明ともなるのだった。
少女は家を飛び出し、雨に打たれていた。ある日目覚めた不思議な力、それは自分の輪廻転生の最後を知る能力だった。もう、生まれ変わることはないんだね。その能力が本物だと信じたのは、その能力が本物だったから。こんな力、欲しくないよ。ならば、僕にくれないかな。彼女に手を差し伸べたのは西魔王だった。
西魔王に導かれ、そして訪れたグリモア教団の超常神通室。なんで、私なんかを。その答えは簡単だった。輪廻転生の証明に必要なのは二つ。前世の存在の証明と来世の存在の証明。君が失くした来世、それこそが来世の存在証明なんだよ。西魔王は水通者ロジンをお姫様の如く扱うのだった。共に、最高の現世を過そう。
えーと、次は、刻の狭間、って。ジンソクは配達先を確認して肩を落としていた。あの神、よっぽど通販好きなんだな。そんな彼が持っていた能力は自由自在に移動する力。それはまるで神の様な能力。その能力目当てにグリモア教団は彼を招き入れ、そして彼は籍を置く代わりに衣食住を保障してもらっていたのだった。
グリモア教団に籍を置き、そして超常神通室所属の風通者ジンソクになろうとも、彼のスタンスは変わっていなかった。配達の仕事って、意外と面白いんだよね。そう、彼は時を廻る配達人。そんな仕事であり遊びである配達を楽しむ為にも衣食住の保障が必要だったのだ。完全世界とか知らん。それが彼の口癖だった。
ねーねは、ここからいなくなっちゃうの。少女の疑問、それは遥か遠くの話声が聞こえたから。身寄りのない姉妹は教団で育ち、そして完全世界を目指していた。そして、後にテンニと呼ばれる少女が聞いた通り、姉は教団を去っていった。なぜ遠くの声が聞こえたのか、それは少女が能力を手にしていたからだった。
誰かの幸せは誰かの悲しみであり、誰かの悲しみは誰かの幸せである。少女の姉は常にその疑問に取り憑かれ、そして教団を抜け出した。幸せは悲しみであり、悲しみは幸せである。その事実に気付いたからこそ、神との次種族<セカンド>の道を進む光通者テンニに聞こえるように叫んだ。お姉ちゃんは、おこだぴょん。
君に視てもらいたい人がいるよ。東魔王の勅令を受けたテンゲンはとある人物を探していた。何となくだけど、完全世界の不安因子になる気がする。その言葉を思い出しながら辿り着いたのは、絶対王政を謳い、後に聖王と名乗る一人の男だった。覗き視た過去世、繋がる不安、なぜなら、何も視えなかったからだった。
闇通者テンゲンの役割には二つの意味があった。一つは輪廻転生の証明、そしてもう一つは例外の証明。幾億万と繰り返されてきた世界に輪廻転生が存在するのであれば、前世を、過去世を持たない存在が何を意味するのか、それが始まりを意味している事に気付いた時、その存在が存在している恐怖に気付くのだった。
教団が所有する千年書庫の司書を兼任するタシンが持つ能力は他人の心を知る能力だった。他人が何を考え、何を求め、何の行動をするのか、その全てが手に取るようにわかるのだ。それ故、その能力を知る者はごく一部に限られており、また教団の特秘事項に定められていたのだった。教祖は何時も、真っ直ぐですわね。
不安因子を、完全に取り除きたいんだ。無通者タシンには特殊任務が下され、赴いた先には二人の青年の姿が。運命に抗おうと毒を捨てた青年の心は読まれた。死を恐れてはダメよ。そして言葉は続く。なぜ、なぜあなたの心は。目的だったはずの人物の心は読めなかった。いや、心が存在していなかったのかもしれない。
ねぇ、なんでよ。転がす錠剤。つまり、そういうことさ。描かされる絵。ここは、とある患者達を収容する廃病棟。あぁ、どうして。見つめる手首。だから、くだらないよ。そこは綺麗な景色の広がったお花畑。ねぇ、あぁ、もう、おやすみなさい。
少女の食事に興味津々な猫。あげないわ、これはダメよ。しょんぼりした猫。そんな顔してもダメよ。そっぽ向いてしまう猫。あっ。しょんぼりした少女。そんな少女の小さな悩みは、大好きなナスの浅漬けを、一緒に食べることが出来ないことだった。