四つ目の庭園で待ち構えていたのは筆型ドライバ【ウヅキ】を手にしたフジだった。あっしも状況はわかっちゃいますが、無料で手を貸す訳にはいかんもんでして。ならどうすればいい。絶無の少年は十分な金銭を持ち合わせてはいなかった。その立派な体があるじゃございませんか。眼鏡の奥、眼光は鋭さを増していた。
ほとばしる汗、ぶつかり合う体、交わる筆と斧、そして、激闘の果てに勝利を収めたのは絶無の少年だった。いやー、丁度良い運動が出来ましたわ。戦いを終えた水花獣フジが話す水を留めし少年と、共に旅する水精王に訪れようとする悲劇。いつも冷静沈着な無の精霊王も、今だけは焦りを隠せずにいたのだった。
アリトンの瞳は濁っていた。あの日、自らの親の命を奪い、身も心も悪魔に捧げた時からだった。僕のフリをしながら生きるのは楽しいかい。刃と共に突きつけた真相。別にかばってくれなくていいんだよ。それにね、もううんざりなんだよ。振り下ろされた水の刃、いつかの砂浜に残した二人の名前は、波にさらわれた。
水の刃が切り裂いたのは、水を留めし少年をずっと見守って来た精霊だった。止めどなく溢れる水。もう、私がいなくても大丈夫だよね。最後の力を振り絞ってまで守りたかった少年は、水へと還る精霊を、一人の女性として抱きしめた。兄さん、僕たちは行くんだ、完全世界へ。西魔王アリトンは傷跡だけを残し消えた。
心地よい水のせせらぎが聞こえた庭園、縁側でふと一休み。ただ、その庭園で澄み渡っていたのは水の音だけではなく、噂話を含めた、ありとあらゆる情報が澄み渡っていたのだった。そんな庭園の主である水の花獣は、情報屋を営んでいるのであった。
常界の蒼き母なる青き海に包まれた孤島、そこには一人、降り出した雨の中、曇り空を見上げ、喜びの笑みを浮かべる少年がいた。その瞳が濁っていたのは、濁ってしまった世界を見過ぎたせいだろうか、それとも、彼の心が濁っていたせいだろうか。