忘れたい出来事があった。それは、忘れてはいけない出来事だった。脳裏をよぎる走馬灯は心を打ちつけ、外は激しい雨が地面を打ちつけていた。そっと、頭にはめたヘアバンド。それは湿気でふくらんだ髪の毛を押さえつける為か、それとも脳裏の思い出を押さえつける為か。アオトは一人、鏡の中の自分を見つめた。
少年は一人、路地裏に佇む老朽化した建物へと足を踏み入れた。そこで飛び交う言葉は、必要最低限の単語のみ。僅かな交流で成立する間。さぁ、今日の獲物はどうしようか。カウンターに腰かけ、待ち構えていた主へと浴びせる第一声。サバ寿司一つ。
頭の悪い天才が創り物の心で創りあげた自律兵器は、本来上位なる存在へ献上され、そして一人の少女の命を奪うはずだった。だが、想定外の強さを見せた少女により、再起動<リブート>がかかり、そしてエレメンツハートは稼動したのだった。
冷静沈着な自律の心を掻き乱したのは異なる二つの鼓動だった。泣き叫び、助けを乞う鼓動に、それを嘲笑う楽しげな鼓動。一度も出会ったことのない二つの鼓動は、自律の心から離れようとしなかった。それは一体、何を意味しているのだろうか。