炎の庭園、待ち構えていたキリ。話は聞いている。筆型ドライバ【シワス】の先には絶無の少年が。力を、貸して欲しいんだ。そこには驚くほど素直な少年がいた。ならば、力試しといこうか。戦闘態勢に入る少年と無精王と自律兵器。喧嘩は嫌だにゃん。隠れる拘束獣の頭上、ふわふわ、一人の乙女が浮かんでいた。
庭園の縁側、戦いを終えた炎花獣キリは皆をおもてなし。饅頭頬張る自律兵器に、猫飯に夢中な拘束獣、ふわふわ乙女。そうか、友の為か。少年が口にしたのは共に聖なる扉を目指し、そして今は別々の道を歩む五人の友達の話だった。我も久しぶりに精霊王達に会いたいぞ。三人は少しの間、思い出を語らっていた。
少し遅めに起きた朝、少年は汗ばんだタンクトップを脱ぎ捨て、綺麗に折り畳まれていたTシャツに袖を通した。なんだか今日はいい日になりそうな気がする。それは空が晴れていたせいか、それともお気に入りのTシャツを着ていたせいか。アカネは感じた期待を胸に、冷やしトマトを頬張りながら家を飛び出した。
程よい日差しが心地良さを演出する炎の庭園。晴れた日はそっと縁側で一休み、空へと放り投げた素足、背伸びをしただけで洗われる心。そんな庭園ではきっと、主によるお茶よりも熱い心のおもてなしが待っている。そう、心地よい熱さが待っている。
いつでも少年は真っ直ぐだった。それはきっと、父親が母親に託した想いがあってこそ。写真の中の父親を見つめ、いつか追い越してやると、ただそれだけを目標にしていた。冷やしトマトが好きなところもそっくりね。母親の言葉に、頬を染めながら。
設計図へと込めた想い、それはあの日出会った初恋だった。そして完成された第五世代自律兵器型ドライバ。だが、開発の過程で生じてしまった唯一の誤算、それは一卵性双生児というありふれた例外だった。その誤算に気づきもせず開発は終了された。
残されていた開発過程の記憶、自分の名前らしき言葉を呼び続ける声。いや、正確には声ではなくタイピングであり、プログラムだった。そして、ありふれた例外による誤算により遂げられた再起動<リブート>は、初恋の果ての純愛を予感させた。