ショーウィンドウに並べられたコドラチョコタルトの外壁が溶け出し、ひょっこりとハート型の目が辺りを見渡した。もうすぐ1年に1度のバレンタインデー、それは大好きな人へチョコレートと共に想いを伝える乙女の日。皆、瞳を輝かし、胸をときめかせていた。誰かが自分を買っていく、そんなことを夢見ていた。
冷やしトマトを頬張っていた少年へと届けられた化粧箱、半信半疑に解いたリボン、外した蓋から覗いたのは、殻を壊したドラチョコタルトだった。ひび割れたハートに突き刺さった矢、添えられた手紙に記された告白。君のことを初めて見た時から好きでした。だけど、そこには差出人の名前が記されてはいなかった。
桜の花びらが添えられた化粧箱から目を覗かせていたのはコドラマッチャ。駆られた好奇心、じっとしていることが出来ず、外の世界への憧れを隠しきれずにいた。ただ、外の世界へ羽ばたこうにも、最後の勇気が出ない。君も体がうずいちゃって仕方がないんだね。ひとりの少女が、そっと拾い上げてレジへと向かった。
仲直りの為に、友情の証にと友達へと買ったはずのプレゼントは渡せないままでいた。自分と似ていた気がした、だから友達へと渡したかった。そんな願いが叶うこともなく、箱から飛び出すまでに成長を遂げたドラマッチャ。いつかきっと、渡せる日が訪れることを願って、風を纏いし少女は未来へと駆け出した。
5つ下さーい。笑顔の少女はみんなの為にとコドラチョコバーを買って帰った。疲れた時や悲しい時、落ち込んだ時の味方はやっぱり甘くて美味しいチョコレート。きっとみんな喜んでくれるよね。笑顔の仲間を思い浮かべ、少し小走りになっていた頃、5つのチョコバーがしまわれたカゴバッグは不吉に蠢いていた。
みんなー、お土産買って来たよー。くつろいでいた4人に渡そうとカゴバッグに手を入れるも、掴むことが出来たのは空白。そんな少女の背後、姿を現したのは、自らを閉じ込めていたチョコレートを食い散らかしていたドラチョコバー。怒りをあらわにする乙女5人、食べ物の恨みが恐ろしいことは言うまでもなかった。
あぁ、今日も会えないわ。あなた様はいつになったら会いに来てくれるの。愛しい人への想いを募らせるイセ。今日も大好きなチョコレートを作って待っているというのに。甘味処ショコラティエのカウンター、両肘をつき待ちぼうけ。そんな時、来客を告げる鐘の音が。いらっしゃいませ、笑顔で入口へと視線を向けた。
訪れたのは恋乙女に戦乙女、太陽に咲く花、皆、恋する乙女達だった。いつまでも想い人は会いに来ない、募らせた想いはやがて彼女を本来の姿である甘女竜イセへと。解き放たれたドラゴンの姿に呼応したかの様に訪れた次の来客。やっと来てくれたのね。期待の眼差しを向けた先には、鎌を携えた悪魔が立っていた。
外されてしまったリミッターにより暴走を余儀なくされた機体、第五世代自立兵器型ドライバは失敗だった。だが、それは始めから計算されていた暴走。計算の上で計画されていた小型化、【ナノ・リヴァイアサン】を引き連れた幼き竜インダストラは、満面の笑みを浮かべ、統合世界全土へと、終焉の言葉を口にした。
聖王の邪魔はさせまいと、立ち塞がったのは銃槍と銃鎚を構えた二人の聖銃士。人間がおもちゃを手にしたくらいで、古の竜に勝てるわけなんてないのにね。水明竜インダストラは幼き笑顔を絶やさぬまま、指先一つで【テラ・リヴァイアサン】を解放、聖銃士二人の放った水を可憐に泳ぎ、白い隊服を赤へと染めた。
ここはイロトリドリのチョコレートが取り揃えられた甘味処ショコラティエ。カウンターでお客様のおもてなしをするのは、未だ会いに来ることのない愛しき人へと想いを馳せる甘女竜。今年こそは、世界で一番甘い、聖・バレンタインデーを。
聖なる扉が開かれるより遥か以前、古より栄えていた水の文明。そんな水の文明を司る古宮殿への扉が開かれた時、水の竜が産声をあげた。天界、常界、魔界、そのどこにも属すことのない統合世界にとっての例外は何故、この時に開かれたのだろうか。