さぁ、今夜は世界評議会から皆さまに希望を届けましょう。オズは五体の仲間と共に終わりのファンファーレを鳴らした。そう、終わりから全てが始まる。空へと投げたシルクハット、鳴らす指先、目の前に呼び出されたのは六体のドラゴン。種も仕掛けもございません、これはただの魔法です。悲鳴は歓声となり届いた。
呼び出されたドラゴンを包む大きなマント。次の魔法をお見せしましょう。翻したマントから姿をみせたのは獰猛な姿を捨て、刃と化した六体。炎、水、風、光、闇、無、それぞれの力と呼応するかのように、六つの光が舞い降りた。これは全部、ただの魔法ですよ。道化竜オズは深いお辞儀で終わりの夜を締めくくった。
保健所までの記憶はなかった。自分の両親が誰なのか、飼い主が誰だったのか。ただ一つだけの記憶、自分は他の犬とは異なっていたという事。君の居場所はこんな場所じゃないんですよ、今日からは僕が君のお父さんになりましょう。差し出された右手、わざわざ外された手袋を見つめ、トトは彼を信じることに決めた。
家族の温もり、解かれた力、それは全て道化の魔法使いが教えてくれた。忌み嫌っていた特別な力が、大好きな主人を守る力となる。道化犬になろうとも、家族と暖かなミルクとクルミパンさえあれば他には何もいらなかった。ただ、トトが未だに正せずにいた間違い、そう、今でも自分を犬だと思い込んでいたのだった。
眠れる森の西の果て、緑の女王の目覚めと共に、夢から覚めた使い古された案山子は溢れ出した光に手を伸ばした。誰も届かない森の中へと訪れた道化の魔法使いとなら、この光の正体へと辿り着けるんじゃないか。ずっとひとりぼっちだった彼の手を引いてくれた魔法使いの為に、カカシは迫り来る全ての害を退ける。
道化の魔法使いにより新たな力を授かり、道化魔へと進化を遂げたカカシ。ただ彼は、自らの手を引いてくれた存在の為だけに存在する。そこに言葉はなく、あるのは蔦の様に固く絡まった想いだけ。使い古されていた案山子に芽生えた感情は、自らを使い捨てた統合世界<ユナイティリア>への害へと変わり果てた。
大都会に解き放たれたレオンは、憧れていたはずの外の世界に愕然とした。立ち並ぶビルの隙間から見上げた紫には申し訳程度に光ってみせる星屑達。そして、そんな星屑にさえ前足の届かない自分を嘆いた。もしも翼が生えていたら。その願い、僕が魔法で叶えましょう。獅子に翼を、百獣の王は引き換えの枷に応じた。
枷と引き換えに得た翼、道化獣レオンは大空を翔けた。そう、この翼で再び自由な世界へと帰ることも出来た。だが、百獣の王は道化の魔法使いの側に。枷なんて何の役にも立たないこと、そんなことはきっと始めからわかっていた、なのに自分に翼を与えてくれた。枷よりも固い信頼、一人と一匹は種族を超えた家族へ。
晴れ、ときどき、向かい風。彼女は風が嫌いだった。風の力は彼女から夢を、全てを奪った。目を覚ました魔界<ヘリスティア>の空を見上げ、堕ちた自分へとこぼした嘲笑。ここにアイツはいないんだ。新しい世界、駆け出す体。ここなら私が1番になれるんだ。置き去りの昨日にサヨナラを告げ、ドロシーは産まれた。
道化の魔法使いと行動を共にする彼女にはもう、恐れるものなどなかった。生まれ変わった自分なら、今の自分ならきっとアイツに負けることもないと。道化嬢ドロシーにとって、吹きすさぶ風はみな追い風。だが、彼女は気づいていなかった。いつまでも一人の少女に囚われたままでいる事に。晴れ、ときどき、竜巻。
星屑街<コスモダスト>の片隅、存在そのものを忘れ去られ深い眠りについていた第一世代自立型ドライバ【ブリキ】は、世界評議会に属する道化の魔法使いの手により、永遠の眠りから解き放たれた。そんな彼は、誰が作ったのか、第何世代なのか、そんなことよりも、自分と共に生きる家族が欲しいだけだった。
進化することのない第一世代自立型ドライバは、道化の魔法使いにより新たな力が与えられ、道化嬢により装飾が施された。そして道化機【ブリキ】は自分を永遠の眠りから解き放ってくれた主人の為に稼動する。種族を越えた主従関係、それは機械ながらに感じた家族の温もりであり、そしてまた、異常事態でもあった。