常界、天界、魔界、そのどこにでも突然現れる男は、自らを聖暦に生まれたロキだと名乗った。的を得ない発言、読めない行動、その全てが場をかき乱す。一貫性のないその言動の裏に隠された真実には、触れることすらままならない。聖なる出口<ディバインゲート>なんて存在しないよ、それが彼の口癖だった。
こんなのただの悪戯さ。解除されたリミッター、暴れ出す自立兵器型ドライバ、彼が始めた神々のごっこ遊び。それこそが、黄昏の審判の始まり。悪戯王ロキは慌てふためく統合世界<ユナイティリア>に暮らす者全ての敵となった。聖なる入口<ディバインゲート>なら存在したね、彼はそう言い残し、姿を消した。
数年前の出来ごと、精霊会議にて議決された一人の妖精の天界<セレスティア>追放。反対に票を投じるも、守ってあげることが出来なかった後悔が、今でもヨウキヒを追いつめていた。同じ優しさの風や厳しさの風に吹かれて育った仲間との別れ、彼女は大切な人を失って初めて、天界の作られた歪な平和に気が付いた。
犠牲の上に成り立っていた平和、それは外から見れば喜びに満ちた世界なのかもしれない。だけど、少なからず、都合の良い犠牲は存在していた。天界<セレスティア>の歪な平和の真実を追い求めた風の美女ヨウキヒに、ひとりの天才が囁く。だから私は片目を閉ざした、大切なのはいつも、隠された裏側だから、と。
心地良い風を感じることの出来る浴室に、突如として厳しい風が巻き起こる。天界<セレスティア>の平和の歪さに気付いた風の美女は、平和の裏に隠された全てを解き明かそうと、都合の良い犠牲を守ろうと、新しい風を、現実の風を起こしていた。