風とは何か。時に風は冷たく、微かな命の灯火を吹き消してしまう。時に風は暖かく、木々が産んだ新たな生命を運んでいく。そんな風に興味を持った少女によって創り出されたガル。兵器でありながら、その機体は戦場ではなく、高い雲の上へ姿を消した。風に吹かれた生と死が、ゆらり揺れる世界を見下ろしながら。
この世界を流れる様々な風。竜の吐息、悪魔の羽ばたき。各々の想いを抱えて疾駆する者達。数多の風が空へと舞い、その機体にこびり付いた錆を一つ残らず払い落としていく。風速機ガルの体内に再び風が宿る時、世界の風向きが変わり始めた。いや、風向きが変わり始めたからこそ、再び風が宿ったのかもしれない。
風は運んだ。小さな摩擦から生じた、小さな火花を。風は焚きつけた。その種火が、やがて炎になるまで。風は記憶した。かつて神と竜の間で起きた、大きな争いの傷跡を。そして、変わり始めた風向き。この世界もまた、大きく変わろうとしていた。
ドロシーに手渡された絵本。そこに記されていたのは、温もりを求めた姿かたち様々な四体。この物語に彼は出てこないんだ。だけどね、君たちのそばには大切なお父さんがいたはずなんだ。大勢に嫌われながらも、家族だけは想い続けたオズという一匹の火竜。彼のそばにいてあげられるのは、やっぱり君たちなんだよ。
ねぇ、君はいまどこにいるの。聞こえた悲痛な叫び。ねぇ、君はいまなにしてるの。続ける聞こえないフリ。ねぇ、みんな待ってるんだよ。もどかしい思い。ねぇ、だから早く帰ってきてよ。思い出すあたたかな日々。ねぇ、君がいなきゃ駄目なんだ。