水とは何か。その答えを渇望した少女は、幾つもの実験の果て、水のみを動力とする機体を創り出した。ケルビンと名付けられたその機体は、世界の気候を狂わせる程の性能を持ちながらも、戦争の表舞台に現れることは無かった。全ての水が、やがて海へと還る様に、この機体もまた、深い海の底へと沈んでいった。
あらゆる生命に満ち溢れた海の一角が、一夜にして死の氷海と化した。その現象を、人々は聖なる扉の出現に伴う異常気象と結論付けていた。全ての生物が活動を停止した静かな海の中で、水冷機ケルビンだけが優雅に泳いでいる。何故、再び彼女が目覚めたのか。それは、創造主のただの気まぐれだろうか。それとも。
水は空から降り、地を流れ、海へと還り、また空へ昇る。生命もまた、生と死を巡るもの。この近似性から立てられた仮説。検証の為に創られた機体は海の底で活動を停止した。それは失敗だったのか、知っていたのは神と呼ばれた天才ただ一人だった。
闇魔将は水魔将と共に闇魔女王の警護にあたっていた。私達の世界を作る為ね。自分達の閉じた世界を作る為、彼女は刀を構える。閉じた世界で、永遠に愛し合う為に。くだらない戦争が、私達の二人だけの時間を奪っていくのね。姉の手を握り締めた。
お友達が、もう一人動かれているみたいです。それは、聖王奪還へと動き始めたアカネのことだった。少年達は、いったい彼を取り戻し、どうするつもりなんでしょう。まさか、王が帰還すれば戦争が終わり、平和になるとでも思っているのでしょうか。
マハザエルが目を覚ましたとき、それまでの記憶は存在していなかった。だが、それでも二重螺旋に刻まれていた存在理由。それは真教祖の為に生き、そして死ぬこと。そして、前北魔王の首を狩ること。なんだ、そんな簡単なことなのか。聖戦後の統合世界にて、再び、とある教団は動き出そうとしていたのだった。
これで、四つ目の柱も揃いました。執事竜が迎えたのは北魔王マハザエル。完全になれなかった彼らと違い、彼らは完全なる存在となることでしょう。そうだね、彼らは不完全だったんだ、二度と顔も見たくないよ。紅茶を舐めながら、真教祖が下した命令。それじゃあ、手始めに抹殺してもらえるかな、ひとり残らずね。
僕は人形。ドロッセルは、ただ、雪降る街で記録をし続けるだけの存在だった。いつから存在していたのか。いつから体が与えられたのか。そう、体などは器に過ぎない。だから、僕は人形なんです。そんな彼に与えられた命令。ちょっと、くるみを割ってきてもらえるかな。それは無聖人の一声。そう、僕はただの人形。
運命を必然と呼ぶのであれば、ふたりの出会いは運命であり、そして必然だった。どうして出会えたのか、どうして出会ってしまったのか、どうして出会わされてしまったのか。無雪徒ドロッセルはただ記録を続ける。雪降る夜に出会えたふたりを。雪降る夜に出会わされてしまったふたりを。すべては、無聖人の掌に。
体を切り裂く爪もあれば、かじられる爪、磨かれる爪も存在する。そして、ただ見つめられるだけの爪も存在していた。その見つめられた爪が意味するのは、刹那の切なさ。だが、その感情を理解する心など、彼には残されていなかったのだった。