始まった演説。我らが教祖様は、完全世界へと旅立たれました。私達は、至っていなかったのです。教祖様のみが、完全だったのです。ですが、そんな教祖様に残されようとも、想い続ける三人の魔王達や、教団員達がいるではないですか。演説は続く。
『ほら、みんないい子だ。だから、ちゃんとお勉強しような』 数学教師のヒスイは、いつでも自由な生徒達を気にかけていた。だけど、まぁ、自由なのは良いことだ。そんな考えは生徒達から絶大な支持を得ていた。だからって、お前らまで自由過ぎだろ。その怒りは、丸めた布団を抱えた養護教諭に向けられていた。
ひとり生き残ったオベロンに生気は残されていない。そして、されるがままにされた幽閉。こうして、いったい何年の月日が流れただろうか。再び聖なる扉が開かれたとき、ひとりの人間が天界の裏側、深い闇が閉じ込められた洞窟へと迷い込んでいた。
聖なる扉は閉じられ、天界と魔界の連絡手段は限られていた。ヒスイは調停役というその任から解放された。終わった戦いを掘り返すつもりはない。だが、出来ることなら、もう一度ふたりに、ふたりが目指せたはずの道を歩かせたいと願っていた。
目を開けようが、閉じようが、ヴラドの目の前には暗闇が広がっていた。ヴラドは負けを認めていた。だが、ヴラドは気づいていたのだった。最後の一刺しが、オベロンのものではなかったこと。そして、オベロンが王の涙を流し続けていたことを。
朽ちていた牢獄の鍵。人間の女はオベロンの元へと通い続けた。会話を続けた。元の世界には大切な家族がいたことを。家族という存在の大切さを。そして、次第に開かれるオベロンの心。そんなふたりの間に、新しい家族の命が宿ったのだった。
幽閉されたオベロン。棺で眠るヴラド。自分だけが普通に生きていいのだろうか。ヒスイはあの日の自分を責めるかのように、竜王家を抜け、ひとりであの日の続きを探していた。そして再び聖なる扉が開かれたとき、かすかな希望を抱いたのだった。