古の竜の襲来に備え、世界評議会により秘密裏に組織されていた特務竜隊<SDF>へ出動要請が出された。解き放たれた喜びの業火を吐き出したのは人工竜デラト。これは全て、約束されていた未来。ただ、一人の聖暦を我が手中に収めようとした例外を除いて。そして、その例外による弊害が立ち塞がろうとしていた。
散った一途な誓い、眠りについた眠れぬ獅子、そして、首筋に不自然な赤い痕が残された古の炎竜。戦闘は既に終わっていた。自らの獲物が奪われた怒りは、より強い者と戦える喜びへ、炎喜竜デラトへと姿を変えた。そんな喜びの矛先が向けられたのは、一人の例外により生まれた、一人の鎖に縛られた弊害だった。
混種族<ネクスト>が先天性であるとしたら、アングは後天性である。そう、生まれたその後に混ざり合った異なる血液。どのような過程で混ざり合ったのか、どのような目的で混ざり合ったのか、その全ては明かされず、次種族<セカンド>という名前のみが与えられ、特務竜隊<SDF>として戦場へ駆り出された。
水怒竜アングは激しく怒っていた。唯一与えられていた命令、古の水竜の討伐。だけど、駆り出された先に待っていたのは、隊服を赤く染められた二人と、首筋を赤く染められた一人だった。既に奪われてしまっていた獲物、自らの、次種族<セカンド>としての存在理由は、何者かにより奪われてしまっていた。
人工竜に混種族<ネクスト>に次種族<セカンド>と、特務竜隊<SDF>は様々な竜により編成されていた。神に抗う存在が竜であるのならば、また竜に抗うのも竜であった。上位なる世界より訪れた古の文明竜の討伐命令に対して、竜との混種族<ネクスト>であるにも関わらず、ジョーイは楽しそうに戦場へ赴いた。
何故か、傷だらけながらも安らかな顔のまま横たわった二人の男女がいた。その隣、少しはだけた胸元に赤い痕が残された一人の少女がいた。そう、自らの討伐対象であった古の竜は既に倒れていた。あははは、古の竜なんて、大したことないんだね。混種族<ネクスト>である風楽竜ジョーイは、楽しそうに駆け出した。
友達なんていらないよ。少女は変わりたくて夜の街へと逃げ込んだ。この喧騒とネオンは私に優しいのね。そこでは一人じゃなかった。そうよ、私は夜の蝶になるの。だったら、思う存分、甘い蜜を吸わせてあげようじゃないか。甘い誘いを求めた少女の存在は世界から消え、そしてクロンという少女が生まれたのだった。
愛想笑いが心地良いわ。ほら、みんなもっと笑って、笑って。ここに理性は必要ないわ。甘い、甘い、そんな蜜を、いつまでも吸い続けることが出来るのだから。私は、蝶になったの。それは偽風精クロンの望んでいた結果だった。ありがとう、私のことを変えてくれて。礼には及ばないよ。これが、正しい道なんだから。
人は、いつまでも変わらずにいることは難しい。だけど、簡単に変わることも出来ない。だからこそ、自分を簡単に変えることが出来る、そんな魔法の薬があるのならば求めてしまう人がいるのもまた事実。需要と供給、それは幸せな取引だったのだ。
鍛練を怠らないのは、守りたいものがあるから。では、鍛練をしない人は、守りたいものがないのだろうか。決して、そんなことはなかった。ただ、自分の体を犠牲にすることでしか、愛情を表現することの出来ない不器用な存在がイージスだったのだ。
自分が王から将へと成り代わった事実に、翠風魔将イバラは気づいているのだろうか。寝惚け眼をこすりながら見つめたのは天界の辺境の街。そして、彼女は一言も言葉を発することなく、その街は茨に覆われた。これは、ただの時間稼ぎにしか過ぎないんだから。そして、彼女は再び深い眠りにつこうとしたのだった。
眠られてちゃ、困るのよ。無数の茨を掻き分けながら、美風精将ヨウキヒは姿を現した。ウチらだって、無益な争いをしたいわけじゃない。だが、すれ違い続ける両陣営。勝利の先に、なにを求めるの。その問いへの答え。勝利、敗北、それを語るのなら、私達は敗北で構わない。無益な戦いが、ここでも始まるのだった。
過去を司る女神ウルド。そう、いつだって過去は美しいのだ。人はみな、過ぎ去りし日々へと思いを馳せる。長い時が経てば経つほど、過去は美しくなる。だからこそ、過去を司る女神は光輝いていた。過去は変わらない。過去は絶対。過去は美しい。だからこそ、私に縋ればいい。与えてみせよう、美しく素敵な過去を。
過刻神ウルドが動き出したのには理由があった。刻を司るのは、私たちだけじゃなかったな。剣先が狙うのはただひとり。もうすぐ、いまの世界は終わるんだ。それは世界の決定。そして、もう一度歴史を作る。だから、邪魔をしないでくれ。そして、その言葉を否定する言葉。違うわ、私はただ終わりを観測するだけ。
未来を司る女神スクルド。そう、未来には死が待っている。それは長き刻の終わり。それを始まりと呼ぶ者もいるだろう。だが、確実に終わりは訪れ、始まりは訪れないこともある。だから私は闇を纏った。そうさ、私は終わりという未来を与えることが出来る。それは神であるあなたも例外じゃない。わかっているよね。
神界には様々な神々が暮らしている。そして、なぜその神界がラグナティアと呼ばれているのか。そう、神の中にも勝者と敗者が存在していたから。あなたの世界は、私たちに負けたのよ。未刻神スクルドが突きつけた現実。だから、私たちに従っていればいいの。刃向かうことは許されない。たとえ同じ刻神だとしても。
未来と過去の間に存在する現在という不確かな時間。存在した次の瞬間、そのイマは過去になる。だから、私は無を司る。現在を司る女神ベルダンディはそう述べた。だが、私という存在は必要とされた。刹那のために。そして、刻が歩みを止めないために。世界は終わる。終わらせる。そして、新たに始めましょう。
現刻神ベルダンディとふたりの姉妹、刻命神が一堂に会したそのとき、目の前にいたのは、かつての神々の争いの敗者であり、同じく刻を司る神だった。あなたは、また私たちの邪魔しようっていうのね。以前に現れた聖なる扉。封印された扉の君。その裏の立役者、観測神。私が観測すべき終わりは、彼らの勝利だから。