世界って言うのはね、少しくらい歪んでないとつまらないのよ。閉じられた刻の狭間から追い出された調聖者・クランチは刻の隙間から新たに動き出そうとしている世界を覗き込んでいた。歪まないのなら、アタシが歪ませるわ。それこそが、世界を調整する為に生まれた彼女の役目だった。聖なる扉とか、関係ないわ。
統合世界に生きる数え切れない命、その中のたった一つの命が一人の人間を成長させ、そして世界を変えた。僅かな歪みは大きな歪みへ。だから炎調者クランチは一人の少年を見つめる。きっと彼がまた、歪みになると願い。アタシを、退屈させないでよ。自立型ドライバ【ドライブ】と共に、世界を覗き込み続けている。
少し綺麗で艶のある世界が私は素敵だと思うの。世界を調整する為に生まれた調聖者・コーラスは統合世界を覗き込みながらため息をついた。刻の隙間から観察する対象は愛すべき存在を失い、そして共に生きることを誓った一人の少年。なぜ、罪というものは生まれるのかしら。軽蔑の眼差しはどこか寂しそうだった。
水調者コーラスが自立型ドライバ【デプス】で奏でるのは世界の調律。だが、彼女に世界を自由に調整する権限は与えられていなかった。やっぱり、綺麗な世界が素敵だと思うの。その想いが強くなったのは、覗き込んだ世界の片隅に、汚れない瞳で、汚れない明日を求める少年がいたからだった。どうか、真直ぐな道を。
早すぎた死や遅すぎた生、そんな様々な事情が絡み合いうねりが生まれる、それこそが世界よ。調聖者・フランジャは一歩引いた位置から感想を述べた。あとね、この場所は狭すぎるわよ。それは刻の狭間が閉じられ、代わりに生まれた刻の隙間での出来事。兎に角、全てに意味はあるの、それがこの世界の成り立ちよ。
後少し早ければ、みな助かったかもしれないわ。風調者フランジャが自立型ドライバ【リジェン】と共に思い返していたのは道化竜にまつわる話。でも結果、若き竜が生まれたわ。出会いと別れを経て、竜界に匿われた一人の少女。だから全部、必然なの。覗き込んでいた統合世界、そこにはなぜか竜界も映り込んでいた。
世界なんて、幾つものズレが重なり合って生まれるんだよ。調聖者・フェイザが覗き込んでいたのは天界。やっぱり女の園は美しいね。視線が離さないのは光の乙女達。でもやっぱり、彼女達はどこかズレているよ。肯定的なズレと否定的なズレ、その二つのズレの意味は彼にしかわからない。でもまぁ、いんじゃない。
最初は、いつだって小さなズレなんだよ。光調者フェイザは続ける。だけどね、一度でもズレてしまったら、どんどんズレていくんだ。時間が経てば経つほど、ズレは大きくなるものなんだよ。自立型ドライバ【レゾナス】に問いかける。そろそろ、僕達も動かなきゃいけないのかな。刻の隙間は、少しざわめいてみせた。
もっともっと、過激に歪ませようよ、じゃなきゃ見ていてつまらないよ。調聖者・ファズに与えられた力は世界を激しく歪ませる力。だが、もちろんそれは必要な時にのみである。いつまで僕はここにいればいいのかな。覗き込んだ世界に刺激され、少年は今にも飛び出して行きそうだった。早く、遊びたいだけなんだよ。
うん、いいよ、そういう考え、いいと思うよ。闇調者ファズは不夜城での議決の瞬間を覗き込んでいた。もっとだよ、もっと歪ませていこうよ。足元に転がった自立型ドライバ【ゲイン】を強く踏みつける。それでこそ、世界だよ。これから起きる大きな歪みに心を躍らせる少年は、いてもたってもいられなくなっていた。
永遠に、追いかけっこ。遅くてもいい、速くてもいい、とにかく追い越さないように。調聖者・ディレイの言葉は常に一歩遅れていた。それこそが彼女の存在理由であるかのように。歴史は繰り返される、だから、どうか、負けないで。追い越すことの出来ない彼女だからこそ、いつか追い越せるようにと、願うのだった。
自立型ドライバ【リピート】を展開した無調者ディレイは、自分に与えられた調律する力は、何でもない力であると悟っていた。だから私は、応援するしかないんです。覗き込んだ世界、地位を得た代わりに自由を失った少年の眼差しに、その想いを応援するしか出来なかった。どうか、繰り返される世界に負けないで。