そして少年は「炎」に出会った。真っ赤に燃える炎、それは幼き日からいつも傍に感じていた様な暖かさ。亡き父から譲り受けた甲型エレメンツドライバ【イグナイト】はアカネの右腕、左腕へと収まり、炎を灯す。開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>、交わった世界、運命の火蓋が今、切って落とされる。
そして少年は「炎」に出会った。そして少年は「みんな」に出会った。いっぱい転んだ。だけど楽しかった。いっぱい泣いた。だけど楽しかった。思い出すのは、楽しかった出来事ばかり。俺たちはイマを生きるよ。行こう。開かれた扉の、その先へ―。
ぽつり、ぽつり、降りだす雨。そんな空を虚ろな瞳で眺める少年の空いた心を埋める様に、滴り落ちる雫は「水」となり流れ込んだ。さざ波を立てることすら嫌うアオトと共に、刀型エレメンツドライバ【ワダツミ】は静かに動き出す。開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>を見つけ、世界の交わりを止める為に。
ぽつり、ぽつり、降りだす雨。そんな空を虚ろな瞳で眺める少年の空いた心を埋める様に、滴り落ちていた雫。だが、その雫がもたらした恵み。あの日の少年が振るった一対の刀。悲しみの雨空を切り開き、イマの世界へ希望という虹をかけるために。
少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。小さな体で軽々しく振り回す棍型エレメンツドライバ【フォンシェン】が巻き起こす風が止んだ頃にはもう、既に嵐の前の静けさに終わりを告げ、開かれた扉、聖なる入口<ディバインゲート>へ駆け出したミドリはいない。
少女は走る、誰よりも早く、今を駆け抜ける為に。小さくも巻き起こした「風」を身に纏って。あの日の少女が巻き起こした小さな風は、やがて大きな風に。構えられた棍はイマの世界への風穴を開けるために。世界さえも変えるほどの、大きな風へと。
光り輝く太陽の様な笑顔、少女はいつも笑っていた。楽しい時も嬉しい時も、哀しい時も苦しい時も、笑うことしか出来なかった少女は「光」を宿していた。両手で持つのも大変な大きな剣型ドライバ【リュミエール】の剣先は開かれた扉から溢れた光を指し示す。ヒカリを導く様に、決してその笑顔を曇らせない為に。
光り輝く太陽の様な笑顔、少女はいつも笑っていた。楽しい時も嬉しい時も、哀しい時も苦しい時も、笑うことしか出来なかった少女。そんなあの日の少女は、最後まで笑顔だった。振り回される大剣。すべてはそう、イマの世界で笑い合うために。
少女は夜が好きだった。訪れる静寂、紫色に染まる街、暗く深い「闇」に包まれていた。夜を、闇を愛するユカリと呼応するかの様に現れた鋭い刃を持つ鎌型ドライバ【アビス】を手にした時、浮かび上がるのは闇夜を切り裂きながら進む死神の姿。それは小さな死神、か細い死神、だけど間違いようのない、死神の姿。
少女は夜が好きだった。訪れる静寂、紫色に染まる街、暗く深い「闇」に包まれていた。だが、刻は過ぎ、少女は優しい闇に包まれていた。死神のごとく、振り払う鎌が切り開く未来。あの日の少女は夜明けを求めた。そう、夜明けの先のイマを求めた。
やりたいこともない、夢なんてない、将来なんてどうでもいい。少年はいつも無関心。そしてそんな「無」を好んだ。斧型ドライバ【ヤシャヒメ】を振り回し、力こそが正義だと、力だけを信じた。自分さえよければ他はどうでもいい、全てに無関心なその刃は、残酷なまでに、自分以外の全てをこなごなに粉砕する。
やりたいこともない、夢なんてない、将来なんてどうでもいい。少年はいつも無関心だった。そんな少年が見つけた夢。見つめた将来。俺はイマを生きる。振り下ろされた斧。込められた最高幹部としての責務。それが、あの日の少年のイマの姿だった。